徐脈を改善するためにペーシングを入れるペースメーカーなどの植え込み型デバイスが挿入されているにも
関わらずにペーシングできない状態ってかなり恐ろしくないですか?
そうならないためにも最低でも半年に一回程度はデバイスのチェックを行うのですが、
その中でも確認する項目の一つが閾値です。
この閾値が上昇していることに気が付かなかった場合、最悪の場合ペーシングが必要な時に
ペーシングできないなんてことがあり得ます。
閾値チェックは結構コツをつかむまで難しいチェックでもあるのですが、
かなり重要なので、ぜひ最後まで見て行ってください。
閾値について
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閾値は心臓が収縮するための必要な最小限の出力の値のことで、
植え込み型デバイスの出力設定を決める重要な指標となります。
閾値を測定する方法としてはある一定の出力から落としていき、徐々に出力が小さくなると、
どこかのタイミングで、電気刺激が心臓に伝わらず、ペーシングできないタイミングがあります。
そのタイミングの1つ手前のちゃんと出力できている部分が閾値となります。
正常な出力はこの閾値から2倍の大きさです。
この出力設定をマージンが取れていると言うこともあります。
この2倍マージンが取れていない出力設定の場合、植え込み型デバイスが心臓をペーシングできなくなる
可能性があります。
なぜなら、閾値は日々変化するからです。
昨日までは問題なかったのに今日はペーシングが入らなかったなんてことは決して珍しくありません。
そのため、2倍以上取っていると何かあっても大丈夫だろうということです。
ペーシングが入らないと心臓が収縮できないという可能性があるので徐脈の原因や心拍出量、
血圧低下の原因になります。
特にペーシング率が高い患者さんの場合は致命的な障害になるため、注意が必要です。
適切な出力設定
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出力が低いせいでペーシングが入らないのは恐ろしいということがわかったらと思いますが、
では出力を高くすればいいのでは?と思うのではないのでしょうか。
出力を高くすると、たしかにペーシングが入らない!なんて状態にはなりませんが
電池の消耗が早くなります。
例えば閾値が1.5Vの場合、通常の2倍マージンの考え方で行くと3Vが出力設定として適切です。
しかし、出力がバッテリー電圧を上回る場合、バッテリーの消耗が激しくなります。
植え込み型デバイスはスマホやパソコンとは異なり、充電式ではないので、
バッテリーの消耗が激しい場合、すぐに交換する必要があります。
特にペーシング率が高い患者さんの場合は注意が必要で、
出力設定次第では植え込み時の時点で通常10年ちょいぐらい持つところが
5年程度になっていることもあります。
そのため、出力はできるだけ小さい方がいいのですが、最低限閾値の2倍は出力をとりたいよねということで
出力設定の正常値は閾値の2倍になっています。
ちなみに電池電圧は2.7~3V付近であることが基本的であるため、
出力設定が2.5Vを超えてきたら注意しましょう。
では出力設定を2.5Vにしたいけど閾値が1.5Vだった場合はどうするのがいいのでしょうか?
これには2種類の手段があります。
①パルス幅を伸ばす(限度は1.0msec)
②リード電極をユニポーラに変更する
①パルス幅を伸ばす(限度は1.0msec)
パルス幅は電気が流れる時間を表しています。
通常の設定であれば0.4msecとなっているのですが、
0.4→1.0msecに変更することで、通常よりも長時間電流が流れている状態になります。
これのメリットは流れる時間が長くなるため、小さい出力でもペーシングが入るという点です。
つまり、パルス幅を長くすると閾値が小さくなります。
実際どれぐらい下がるのか、というのは患者さんの個人差もあるのですが、
閾値が下がるのはほぼ間違いないです。
②リード電極をユニポーラに変更する
通常であればリード電極はバイポーラなのですが、これをユニポーラに変更することで
閾値を低下させることもできます。
これはバイポーラからユニポーラにすることで電極面積が大きくなり、リード抵抗値が低下し、
電極間の電流が増加するためなのですが、詳細は別の機会に記事にさせていただきます。
ただ、ノイズが入りやすくなるなどの致命的な弱点があるので、基本的に出力設定のために
ユニポーラに変更することはありませんが、
どうしても閾値を下げたい時の最終手段として知っておくのはいいと思います。
ここではバイポーラからユニポーラに変更することで閾値を小さくできるということを
覚えておいてください。
まとめ
今回は植え込み型デバイスの出力設定に重要な閾値について紹介していきました。
適切な出力を設定することはペーシング不全の原因を防ぐこともできるため、
閾値の測定は非常に重要です。
ただ出力設定を行うだけではなく、バッテリーの劣化も考え、できるだけ長持ちするように
調整を行うのも臨床工学技士として必要なスキルです。
ちなみに出力の適切な設定について、閾値の2倍と説明しましたが、これが最低限必要な出力です。
実際に閾値として測定される数値は1V未満の場合が多く、
私は1V未満であればAV共に出力を2.0Vに設定していることが多いです。
また、個人的には心室ペーシングが入らないのが一番不安なので
V側だけあえて2.5Vに設定することもあります。
これはお守り的な要素もあるので施設によって考えは異なると思いますが、
とにかくバッテリーが長持ちして、安心な出力設定ができれば理想です。
一緒に頑張りましょう!