皆さんはペースメーカ外来などの業務に携わっていますか?
ペースメーカなどの植え込み型デバイスのチェックは基本的に臨床工学技士が行い、
その結果を医師にフィードバックすることで今後の方針が決まります。
そのため、適切なチェックができないとそもそもフィードバックする内容もありません。
しかし、閾値や波高値を測定しようと思うと意外とうまく行かないことがあります。
これ実はなんとなくでやってると全く測定出来ないこともあり、患者さんの不利益にもつながります。
また、測定の仕方次第で患者さんは不快感を覚えることもあるので
どうしたらいいんだと思うこともあると思います。
私も初めの頃によく先輩から言われていたのは
「チェック中に患者さんから何もしないんですか?と言われたら一人前」
と言われてきました。
今回の内容で患者さんの知らない間にチェックが終わらせれる技士になりましょう。
今回は基本的な部分ではありますが、植え込み型デバイスでのチェック方法について紹介します。
これがわかればペースメーカチェックの初心者は卒業です。
- ペースメーカチェックの手順がわかる
- 各種測定値を想定する方法がわかる
植え込み型デバイスのチェック手順

まず、植え込み型デバイスをチェックする際に必要なのは
手帳とプログラマーです。
手帳は今までの経過からどのように変化したのか
プログラマーはそもそも植え込み型デバイスのチェックをするのに必要です。
植え込み型デバイスのチェック項目には
電池の残量を確認することや、チェックしていない期間にあった不整脈エピソードの解析があります。
電池残量は植え込み型デバイスの交換の指標になるため、重要なのですが今回は割愛させていただきます。
また、不整脈エピソードは今回行うとすごく長くなるうえ、初心者には難しい内容ですので
これも今度記事にさせていただきます。
植え込み型デバイスのチェック項目として基礎的かつ非常に重要なのは
①リード抵抗の確認
②波高値の確認
③閾値の確認
です。
リード抵抗の確認
リード抵抗はリードの今の状態がわかるための測定値として非常に重要です。
測定値としての基準値は機種にもよりますが、500~1500Ωであることが一般的です。
200Ω以下でショート(被膜損傷)
2000Ω以上で断線が疑われます。
チェックの際は抵抗値が急激に増加、または減少しているかどうかを確認していただく必要があります。
異常値に近い数字だと思っても実は植え込み時から1年以上同じぐらいです
というパターンもあるので、その場合は悪くなったというよりも
元からそういう状態だということなので、チェック自体は問題ありません。
今まで正常値だったのに、急に500Ωも変化したとかの場合は注意が必要です。
抵抗値について、詳しくはこちらの記事をご参照ください。
波高値の確認
波高値の確認はセンシング閾値と呼ばれる測定になります。
これは植え込み型デバイスが自己脈を感知できる最も低い波高値のことです。
この値は植え込み以降もリードの位置や劣化などにより変化することがあるため、
しっかりとチェックすることが重要です。
波高値についてはこちらの記事をご参照ください。
今回はチェックについてですが、波高値を測定するためには自己脈を出現させる必要があると説明しました。
ここで意外と難しいのがペーシングが入っている患者さんから自己脈を出す方法です。
メーカーによっては自動で測定してくれる機能もありますが、自分で測定するためには
設定変更が必要となります。
一応メーカーによっては自分で測定する際もそれに適した設定を教えてくれるのですが、
患者さんにとっては設定変更で不快感を覚えるようになることもあります。
その時には患者さんの状態ごとに適した設定変更を行います。

- 波高値を測定する場合は自己心拍が出現しているかペーシング波形なのかを確認する
- 自己心拍が出現している場合は設定変更不要
- ペーシング波形が出現している場合は自己心拍を出現させることができる設定に変更する
閾値の確認
閾値を測定するためには、波高値のチェック時に自己脈を出現させることとは逆に
ペーシング波形を出力する必要があります。
閾値についてはこちらの記事をご参照ください。
ここで初心者がやりがちなのがとにかく設定レートを上げることです。
本当にそうするしかない場合もあるのですが、
自己脈60(設定レート50)の患者さんの場合、閾値測定のために設定レートを80まで上昇させると
安静時に心臓はランニングしているような状態になるので患者さんは凄く不快感を感じます。
場合によっては気分不良や胸痛の原因ともなるため、注意が必要です。
ではどのようにしたらいいのかというと、これも患者さんの状態ごとに適した設定変更を行います。

まずは患者さんが今どこにペーシングが入っているのか、どこに自己脈が出ているのかを把握しましょう。
心房、心室がすでにペーシングしている場合は設定変更がいりません。
なので、そのまま測定してもらって大丈夫です。
ペーシングレートが60の場合、機械側から設定レートを上げた設定(設定レート90程度)が提案されますが
ペーシングが出ているので今の設定でも問題ないです。
一方で問題となるの自己脈が検出されている場合です。
この場合は一時的に自己脈からペーシングを入れる必要があります。
まず、Asが入っている場合は設定レートを上げる以外に方法はありません。
例えば設定レートが60の場合は80に上げるなどです。
また、Vpが入っている場合は設定されているモードによっても考え方が異なります。
VVIの場合はAVディレイが関係ないため、As時と同様に設定レートを上げる以外に方法はありません。
一方でDDDの場合はAVディレイの時間を短縮するだけでペーシングが出現します。
通常であれば150~200ms程度に設定されているのですが、
これを70msまで短縮すると大体ペーシング波形が検出されます。
先ほど房室伝導の話をしていましたが、ペーシング波形はそもそも房室伝導などの自己伝導ではなく、
機械が意図的に電気信号を送ることができるので、
AVディレイを短くすることで無理やりペーシングさせるといいうことです。
ここで一つ問題点があるのが、Afの場合。
基本的に心室の閾値が測定できないというのは聞いたことがないのですが
心房のペーシング波計は設定レートを上げても出てこない場合があります。
というか正確にはそこまで設定レートを上げれないというのが正しいのですが、
Afは心房から発生する頻脈のことで、仮にAf時のレートが120であると
Af発生時にペーシングを入れる為に自己脈+20ppmとなると設定レートが140程度になります。
ここまで上昇させることは可能ですが、
植え込み型デバイスの設定レートは150までしか上昇させることができません。
また、レート140となるとかなりの頻脈であるため、私達でも相当しんどいと思います。
患者さんが不快に思うのは間違いないでしょう。
Afの持続時間が長時間の場合は恐らくペーシングは出ないと判断して問題ないため、
心房の閾値は測定しないことが多いです。
なぜなら、恐らくその患者さんは心房のペーシング波計が出てこない可能性が高いため、
仮に閾値が検出できても自己脈しか出ないのであまり意味がないということです。
- 閾値を測定する場合は自己心拍が出現しているかペーシング波形なのかを確認する
- 自己心拍が出現している場合はペーシングさせる設定に変更する
- ペーシング波形が出現している場合はそのまま測定する
- ペーシングが出現しないタイミングでチェックを中断しないと心臓が収縮できない危険がある
まとめ
今回は植え込み型デバイスのチェック方法について紹介してきました。
今回はチェックで特に重要かつ初心者が最初に知るべきポイントが
リード抵抗値
波高値の確認
閾値の確認
ということが分かったと思います。
これら3つの値については植え込み型デバイスを話すうえで重要な値となりますので、
それぞれ別の記事でも紹介しています。
今回の記事で植え込み型デバイスのチェックに興味を持った方は他の記事も見て行ってください。
一緒に頑張りましょう!
- ペースメーカーチェックは順番よりも見落とさないことが重要
- 電池の残量、リード抵抗、波高値、閾値を確認する
- 閾値チェック時は状況次第で心停止する危険があるので注意する