治療介入の指標に?ラクテート(乳酸)について

ラクテートについて 病態生理

皆さんは血液ガス測定の際にどこを確認していますか?
pHやPaO₂、PaCO₂を確認している人は多いと思いますが、
血液ガス測定の下の欄にちょこっと記載してあるLacってご存知ですか?

これは乳酸、ラクテートとも呼ばれる値で、治療介入の指標とも呼ばれる重要な指標です。
この数値はpHにも関与してくる他、組織の酸素需要供給バランスを考える上でも
重要になってきます。

そんなラクテートが上昇する原因や上昇した場合の治療法など、
いまさら聞けない!なんてことありませんか?

今回はそんなラクテートについてわかりやすく説明してきますのでぜひ最後まで確認してください。

ラクテートについて

ラクテートは先ほども説明した通り、別名Lac、乳酸とも呼ばれる値です。
このラクテートは正常値が0.56~1.39mmol/L(5~12mg/dL)とされています。
単位は2種類表記されていることがあり、採用されている施設によって単位が異なるため注意が必要です。

mmol/Lは国際基準の単位であるため、ほとんどの施設ではこちらの値が採用されているかと思われますが、
万が一mg/dLであった場合は5~12を正常値と考えるか、
単位換算する場合はざっくりと×0.1していただけるとmmol/Lに換算することができます。

では、ラクテートでなにがわかるのか?という点ですが、
組織の酸素不足の状況がわかる
ということです。

組織に酸素が行き渡らなくなるというのは、低酸素血症の状態であることも表しています。
この状態になると、人体がエネルギー(ATP)を生み出す際のサイクルが変化してきます。

通常であれば、血中の糖と酸素を消費することで、人体の活動に必要なエネルギーが生み出されます。
この過程を好気性代謝といいます。

しかし、この言葉を裏返すと酸素がない状態だと
人間はエネルギーを失ってしまうというわけではありません。
ではどうなるかというと、
血中からは糖が消費されるのですが、代わりにエネルギーとラクテート(乳酸)が生成されます。
これで人体の活動に必要なエネルギーは生み出されましたが、
先ほどとは異なり、ラクテートも一緒についてきました。
この過程を嫌気性代謝といいます。

つまり、通常の代謝反応ではラクテートは生み出されないため、
ラクテートが生み出される=酸素が不足している場所がある
ということです。

その結果、ラクテートの値で組織の酸素の不足状況がわかるというわけです。

ラクテートが上昇する原因

ラクテートが上昇する原因は主に、組織への酸素不足です。
かなり大雑把した理由のため、この値だけでは上昇の原因を判断することは不可能です。
一応ラクテートが上昇する原因疾患を一部ピックアップしてみます。

低酸素血症
末梢循環不全
心肺停止後(蘇生後)
ショック(敗血症性、心原性など)
重度の呼吸不全
脱水
てんかん(痙攣)
過換気(頻呼吸)
外傷
脳虚血、脳出血
ビタミンB1欠乏症

などなど・・・あげだすとキリがないです。

ここからピックアップすると
末梢循環不全は人体の末梢部分の血流不足による酸素不足
心肺停止後(蘇生後)は直前まで酸素を全身に送る役割を担っている
心臓が機能していなかったことによる酸素不足
重度の呼吸不全はそもそも酸素を血中に取り込む能力が低下しています。

だいたい酸素不足になりそうな症状ばかりなので説明はあえて省かせていただきますが、
意外な症状については補足しておきます。

脱水

脱水と酸素不足は意外と結びつかない人がいるような気がするのでピックアップしました。
これは意外と落とし穴で、脱水ということは血液量も低下している状態です。

つまり、循環血液量の低下から末梢まで血液が届かなくなってしまい、酸素供給不足となってしまいます。
これが脱水によるラクテート上昇の原因です。

てんかん(痙攣)

機能性脳神経疾患の代表的な症状としててんかんがあります。
てんかんは簡単に説明すると痙攣を繰り返し引き起こす疾患の総称です。

一見、脳神経の分野であるため、酸素不足とは無縁のようにも思えますが、
痙攣時は全身(一部)の筋肉が収縮した状態となるため、平時と比べて酸素消費量が増加します。
また、頻呼吸となったり意識消失などにより呼吸困難を引き起こす可能性があり、
酸素需要が増加しているのに供給量が低くなるという状態になることがあります。

この場合、酸素が不足しているという状況となりますので嫌気性代謝による
ラクテートが生成されます。

ビタミンB₁欠乏症

ビタミンB₁欠乏症も酸素不足と関係しているの?と思われた方がいると思いますが
結論から申し上げるとこの症例は酸素不足が原因ではありません。

ラクテートが上昇する症例としては珍しい部類のもので、この症状が原因で乳酸が増加している場合は
酸素化の改善は有効ではありません。

では何が原因なのかというと、ビタミンB₁はエネルギーを生成する過程で使用されるからです。
実は通常の好気性代謝では糖と酸素の他にもビタミンB₁が使用されます。
そのため、酸素不足が原因の場合と同じく、ビタミンB₁が不足していると、
エネルギーと一緒にラクテートも生成されます。

ラクテートは基本的に酸素不足からなるものですが、
エネルギーを生み出す過程でそもそも必要なものが不足していると、
ラクテートを増加させる原因になるということを覚えておいてください。

ラクテートが上昇するとどうなる?

さて、体内でラクテートが上昇する原理、疾患はわかったと思いますが、
では実際に上昇するとどうなるのかというと
乳酸アシドーシスという状態になります。
これは代謝性が原因のアシドーシスではあるのですが、HCO₃⁻が影響する代謝性とは異なり、
HCO₃⁻とは関係なく酸性に傾いてる状態です。

乳酸アシドーシスは3~4mmol/Lまで血中のラクテートの濃度が上昇した場合に発症すると言われており、
これは正常値の2倍程度の値となります。

アシドーシスになると何が危険なのか?という点に関してはこちらの記事でも紹介させていただいています。

やはり、pHの異常は患者さんの状態の悪化に直結するので
よく観察しておく必要があります。

ラクテートが上昇した場合の治療法

ここまでラクテートの危険性について紹介してきましたが、
最後にラクテートを低下させるための手段について紹介します。
この手段については大きく分けて3種類あります。

①酸素不足の根本的改善
②酸素の需要を低下させる
③アシドーシスの改善

①酸素不足の根本的改善

酸素不足の根本的改善というのは、酸素不足が原因で産出された乳酸の増加を防ぐ
唯一の手段ともいえます。
また、直接的に関連するため、一番重要かつ最短で低下させることのできる方法です。

もちろんそんなにうまくいくわけでもないのですが・・・

例えば体内の循環血液量が低下しているのであれば輸血して血液量を上昇させることや
肺の酸素化が悪いのであれば肺疾患の治療を行うなど
酸素不足を改善することはできるのですが、根本的になるとなかなか思うように
治療が進まないこともあります。

ただ、根本的に完治することができるのが最も理想的かつ目指すべき場所であると思います。

②酸素の需要を低下させる

乳酸を下げることができない、根本的治療を行える状態ではないという場合は、
酸素の需要を低下させるということも非常に重要です。

その方法の一つが低体温状態にすることです。
ICUなどではあまり行われることはないのですが、
人工心肺で心臓を止める際にはよく低体温にすることがあります。

低体温状態は、臓器の代謝を低下させ、酸素不足に耐えられるような状態になるため、
乳酸が増加することはありません。

生命を維持するために酸素の必要量が低下するということは、酸素の需要が低下しているということです。

では、ICUなどではどうするのかという点に関しては
補助循環を使用するということです。

特にPCPSは心臓と肺の代わりに全身の血液を酸素化してくれる効果があるため、
心臓や肺を休ませて、回復させるにはもってこいの補助循環です。

ただし、いつまでも使えるわけではなく、回路凝固の都合上、長くても7~10日程度で
離脱を行う必要があります。

補助循環の効果は、心臓の代わりに全身に血液を送る仕事を肩代わりしているので、
その分酸素の消費量が低下するため、酸素の需要も低下しているというわけです。

③アシドーシスの改善

最後に、アシドーシスの改善ですが、
これは代謝性アシドーシスの治療法と同じく、輸液を行うことやHCO₃⁻を上昇させるために
アルカリ性薬を投与することも非常に効果的です。

ただ、アシドーシスの改善はその場しのぎになることが多く、
ラクテートの上昇スピードが速ければアシドーシスが改善する前に
どんどん患者さんのpHが酸性に傾いていきます。

そのため、一時的な治療にしかならないのですが、
このアシドーシスの改善を行うことで、他の治療に効果が生じることもあるため、
これも行うべき治療の一つです。

まとめ

今回はラクテートについて紹介してきました。
ラクテートは体内の酸素不足を反映する数値でしたが、
この値が上昇することでアシドーシスにもなるため、
放置してはいけない血液ガス測定値の一つだ。

正常値をしっかり覚えて、ラクテート増加原因を判断し、少しでも患者さんを
正常な状態に持って行けるのかが重要です。

今回は長くなってしまいましたがここまで見てくれてありがとうございました。

一緒に頑張りましょう!