肺高血圧の救世主?NO吸入療法について

NO吸入療法について 集中治療

皆さんはNO吸入療法というものをご存知ですか?
これはアイノフローという機器を使用する吸入療法で、ICUなどで見かけることがあるかと思います。

このNO吸入療法について、いまさら聞くに聞けず、困っているなんてことはありませんか?
特に診療報酬の点が複雑で、保険適応かどうかの判断も難しいところです。

臨床工学技士としては、アイノフローを操作して、NO吸入療法を開始、人工呼吸器との接続、
さらには医師と使用期間を相談することも求められています。

NO吸入療法を適切に開始できるように、ぜひ勉強していきましょう!

NO吸入療法について

NO吸入療法は先ほども説明した通り、アイノフローという機器を人工呼吸器に接続して行う吸入療法です。

このNO療法というものを簡単に説明すると、NO(一酸化窒素)を吸入するというだけなのですが、
実際に何をしているのかというと、
NOには強力な平滑筋拡張作用があるため、人工呼吸器を介して、肺に直接作用することで、
肺胞の血管平滑筋を弛緩させ、呼吸状態の改善を期待することができます。

これで期待できる効果なのですが、具体的には
①肺胞周囲の血管を拡張させ、換気血流比不均衡の改善が図れる
②肺血管抵抗を低下させ、右心負荷の軽減、右心不全改善の効果が期待できる

という効果があります。

換気血流比不均衡というのは、そもそも無気肺、炎症などが原因で、
肺胞が換気量を確保できていない状態を表します。

しかし、NOを吸入することにより、肺血管を拡張させることができ、肺胞がうまく拡張できる環境が
整わせることで、換気血流比不均衡の改善を図ることができます。



また、NOの吸入により、肺血管が拡張するのですが、これにより右心不全の原因になる
肺高血圧症が改善されます。
肺高血圧症は肺の血管抵抗が上昇することによる高血圧が原因であるため、
NOの吸入は有効な改善手段となります。

NOの適応(診療報酬の適応)

NO療法は肺高血圧の改善に非常に役立つため、様々な症例で使用できるのでは?
と思われるのですが、実は診療報酬の適応範囲がかなり限定的です。

過去に一度だけ適応外で使用したことはあるのですが、苦渋の決断といった感じです。

基本的に診療報酬の範囲は
①新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の改善
②心臓手術の周術期における肺高血圧の改善

です。

ちなみに心臓手術の周術期というのは、開心術後だけではなく、カテーテル治療(PCI)、
IABPやPCPSといった補助循環も適応になります。
ただし、V-VECMOは例外なので注意が必要です。

また、使用期間にも診療報酬で決まりがあり、
①が4日、②が7日となっています。
ですので、基本的にこの定められた期間が来た場合は一度医師に治療方針について確認する必要があります。

NO吸入療法の開始

臨床工学技士がするべきNO吸入療法の対応ですが、
人工呼吸器に接続し、吸入療法を開始させるということです。

NO吸入療法というので当然ですが、人工呼吸器の吸気側で接続することが必要となります。
また、フィルターなどを使用している場合は、フィルターよりも患者側に取りつけるようにしましょう。
フィルターにNOをカバーされると意味がないのでこの辺は注意が必要です。

基本的に開始時はNOの濃度を20ppmで開始することがほとんどです。
一応効果が得られない場合は最大40ppmまで上昇させることが可能です。

効果が得られると、肺血管抵抗が低下するため、PVRI(肺血管抵抗係数)が低下し、
PAP(肺動脈圧)の低下、換気血流比不均衡が改善されるため、SpO₂が上昇します。

これらの効果が確認できると、NO吸入療法としては効果が出ている証拠となります。

NO吸入療法の注意点

NO吸入療法の注意点としては以下の3点が問題となります。
①メトヘモグロビン血症
②肺高血圧クライシス
③血小板凝集抑制作用

メトヘモグロビン血症

NO吸入療法を行う際に使用するNOは基本的に肺血管の拡張に使用されるのですが、
全てが関与できるわけではなく、一部のNOはHb(ヘモグロビン)と結合し、
MetHb(メトヘモグロビン)となります。
このMetHbが全体の1~2%以上になると、全身に酸素不足が引き起こされ、
メトヘモグロビン血症となります。
この場合、NO吸入療法が原因となるため、中止の検討が必要となってきます。

肺高血圧クライシス

肺高血圧クライシスとは、肺血管抵抗の急激な上昇により循環動態が破綻しうる緊急性の高い症状です。
しかし、よくよく考えて欲しいのが、NO吸入療法は肺血管抵抗の低下効果があるにも関わらず、
急激な上昇というのは矛盾しているようにも感じられます。

この肺高血圧クライシスの原因として、NO吸入療法中の患者さんの呼気に含まれる
NO₂(二酸化窒素)があります。

このNO₂は水溶性の気体で、人体に有害な硝酸や亜硝酸を形成するのですが、
人工呼吸器回路内は結露が生じやすく、このような有害物質が容易にできる危険性があります。

また、水滴となったNO₂は回路内に残り続けるため、そこから気管に入り込むと
肺高血圧クライシスを発症することとなります。

ちなみに肺高血圧クライシスはICUで集中治療を行っても死亡率が高く、
かなり危険な合併症であるため、注意する必要があります。

血小板凝集抑制作用

NOにはもともと血小板凝集を抑制する作用を有しており、
これは血液が凝固しにくくなるということを意味します。

この作用により、患者さんは出血傾向になる可能性が高くなるため、
貧血の有無や血小板の数などは随時確認しておく必要があります。

特に開心術後の場合、傷口も大きいため、より注意する必要があります。

まとめ

今回はNO吸入療法について紹介しました。
適応疾患から使用期間、回路構成、さらには開始と合併症についても理解できたと思います。

これでNO吸入療法についてはマスターです!

NO吸入療法は合併症に恐ろしいものもありますが、うまく使えれば
有効的な治療を行うことができる非常に優秀な治療法です。

原理と診療報酬を理解し、ICUに貢献できる人材になれるといいですね。

一緒に頑張りましょう!