皆さんは透析開始の指示があった際に透析膜の種類を聞くと思いますが、
一体なぜその膜を使用するのか考えたことはありますか?
透析に使用する膜は施設によって数が異なるとは思いますが、
他施設から転院してきた透析患者にどの膜を使用するのがいいのか相談されることもよくあります。
全く同じ透析膜を使用している場合はいいのですが、自施設で使用していない膜を使用していることもあります。
そんな時のために今回は透析膜の選択について紹介します。
これがわかれば透析の目的についても見えてきます。
(前提知識)透析膜の種類には2種類ある
まず、透析膜には血液透析中に使用するダイアライザと
血液透析濾過の際に使用するヘモダイアフィルターがあります。
ダイアライザは通常の透析で使用され、
ヘモダイアフィルターはオンラインHDFやCHDFの際に使用される膜です。
この2種類は膜材質が同じものもあるのですが、ヘモダイアフィルターは濾過もするため、
より高圧に耐えられる中空糸を使用しているため、材質が異なるため注意が必要です。
例えば、他施設でオンラインHDFをやっていて、自施設に転院してきた際に、
HD(透析)をしましょうとなった際に、
他施設で使用していたヘモダイアフィルターでHDを行うのは危険です。
もちろんダイアライザでオンラインHDFを行うのも危険ですので絶対にやめましょう。
ここを理解したうえで、透析膜を選択するようにしましょう。
透析膜の種類
ここからは透析膜の使い分けについて紹介していきます。
透析に使用される膜の種類は大きく分けると2種類に分かれます。
合成高分子膜は低分子蛋白の除去に優れており、生体適合性がいい膜だと言われています。
セルロース系膜は小分子量の除去に優れていますが、低分子蛋白の除去には劣っています。
この2つの膜を使い分けるのが一般的です。
その中でも合成高分子膜は種類が多くあり、この中からさらに使い分けることになります。
合成高分子膜
PS膜
PES膜
PEPA膜
PMMA膜
AN69膜(PAN膜)
セルロース系膜
CTA膜
となっています。
PS(ポリスルホン)膜
PS膜は導入期から慢性期まで幅広く使われる透析膜の一つです。
とりあえず迷ったらこれ!という感じで医師が選択するのも納得のシェア率です。
小分子から低分子タンパク、β₂-MGなどの除去にも優れており、アルブミン漏出も少ないため、
血圧も安定するという文句の付け所がない膜材質です。
唯一の弱点としてはPVP(ポリビニルピロリドン)が含まれているため、
PVPアレルギーが生じる場合は使用を避けるのが一般的です。
該当の商品は
フレゼニウス社
FXシリーズ
東レ社
NVシリーズ
旭化成社
APSシリーズ
です。
PES(ポリエーテルスルホン)膜
PES膜はPS膜と同様に導入期から慢性期まで幅広く使用できる膜材質です。
最大の特徴はPS膜に比べてPVPの量は少ないけど同等の生体適合性を示す部分です。
PS膜と材質が似ていることから比較されることが多いですが、
イメージとしてはPS膜よりもさらにアルブミン漏出を抑えてくれる膜という感じです
つまり、血圧の低下をより防いでくれるというわけです。
私の施設ではPS膜は採用しておらず、PES膜のみです。
そのため、他施設からPS膜使用患者が来られた場合、PES膜で対応するのが一般的です。
幅広く使えて血圧低下、PVPアレルギーのリスクを最小限に抑えることのできるPES膜は
安全に透析治療を行うのに適しているともいえます。
該当の商品は
ニプロ社
PESシリーズ
です。
PEPA(ポリエステル系ポリマーアロイ)膜
PEPA膜は小分子から低分子タンパク、β₂-MGの除去能に優れていて、アルブミン漏出が少ないという
これまた完璧に近い膜となっています。
アルブミン漏出が少ないという点が大きな利点で、高齢者に対しても安心して使えるというのが大きいです。
しかし、PS、PES膜とは異なり、あまり多くの施設で使用されているイメージが無いため、
エンドトキシン除去フィルタ(ETRF)としても使用されているイメージが大きいです。
(当施設でも使用していません)
該当の商品は
日機装社
FDシリーズ
です。
PMMA(ポリメチルメタクリレート)膜
PMMA膜は生体適合性に優れ、β₂-MGと炎症性サイトカインの吸着除去に優れています。
通常であればサイトカインを除去する場合は多くの濾過が必要となるため、
アルブミンの漏出が多いという弱点もあります。
しかし、PMMAは炎症性サイトカインを吸着するという膜材質であるため、
炎症反応が高い人にはPMMA膜が選択されることが多いです。
該当の商品は
東レ社
フィルトライザーシリーズ
です。
AN69膜(PAN:ポリアクリロニトリル共重合体)
AN69膜は生体適合性に優れており、唯一の積層型ダイアライザということでも知られています。
この生体適合性に関しては特に優れており、どの膜を試したけど合わなかった、ダメだったという人への
最後の切り札ともなります。
慢性炎症や不安定な循環動態の方にも使用できるのがメリットです。
ただし、ACE阻害薬を使用すると血圧低下、ショックを引き起こすため、禁忌とされており、
ナファモスタットを抗凝固剤として使用する際は、膜が吸着するため、使用不可となっています。
炎症反応やアレルギー反応がある方でも使用できる部分が最大のメリットなのですが、
禁止事項も多く、特にナファモスタットを使用できないというのは残念な部分です。
そのため、私の施設ではAN69膜の代わりにPMMA膜を使用することが多いです。
該当の商品は
バクスター社
H12シリーズ
です。
CTA(セルローストリアセテート)膜
CTA膜は今回紹介する唯一のセルロース系膜で、実際の臨床現場でも
セルロース系膜=CTA膜です。
セルロ-ス系膜はRC(再生セルロース)膜というものもかつてありましたが、
RC膜の生体適合性を改善した膜がCTA膜なので、RC膜は現在ほとんど使用されていません。
CTA膜の特徴は低蛋白の除去には劣るのですが、抗血栓性に優れています。
アルブミン漏出も抑えてくれるので優秀ではあるのですが、
低蛋白の除去をしたい場合はおすすめできません。
長時間透析には非常に相性がいいため、個人的にはHDよりもCHDFで推したい材質ではあります。
ただ、そもそも抗凝固剤をあまり投与したくない(出血傾向が高いため)という患者さんは
一定数いるため、そういう場合にはおすすめできます。
透析の目的が低分子蛋白の除去ではなく、小分子量などであればCTA膜は優秀です。
該当の商品は
ニプロ社
FB-ecoシリーズ
です。
透析膜の使い分け
最後に透析膜の使い分けについて紹介します。
とりあえず迷ったらコレ!という感じでおすすめしたいのはPS膜とPES膜です。
同じく使い勝手のいいのがPEPA膜ですが、
あまり見かけることのない膜ですので、わざわざ使用しないという感じです。
炎症反応が高く、サイトカイン吸着をしたい場合はAN69膜とPMMA膜です。
抗凝固剤にヘパリンを使用し、ACE阻害薬を使用しないという場合はAN69膜でもいいですが、
それ以外はPMMA膜の使用が一般的です。
この2種類は大分子量の除去に優れていますが、除水量を増加させると膜の劣化が早くなるため、
除水目的の場合は注意が必要です。
最後に回路凝固が気になる場合はCTA膜がおすすめです。
アルブミン漏出も少ないため、選択しやすいというのもいい点です。
基本的にはこのように分けていくといいと思います。
透析専門医でない場合は医師よりも私達臨床工学技士の方が膜の知識を持っていることもあります。
循環器内科の医師がICUでHDをしたいけど膜はどうしたらいい?と聞かれた時には
ぜひ参考にしてください。
まとめ
今回は透析膜の選択について紹介してきました。
透析膜は他施設から転院した時や導入期の際に選択することが多いです。
一度透析が始まるとその後は膜を変更させることはなく、透析効率を上げたい場合は
膜面積を大きくすることが多いです。
他施設から転院してきた場合でも、透析膜の材質は同じものを採用することが多いため、
初めの導入期で選ぶ透析膜は非常に重要です。
これは慢性維持透析となった場合、現在の状況を維持するための治療となるため、
膜材質の変更は積極的に行わないからです。
しかし、急性期の症例の場合、例えば炎症反応が高いからPMMA膜で透析導入したが、
炎症反応が落ち着いてきたから除水したいとなった場合には
PMMA膜から別の膜に交換するのが効率がいいです。
透析の治療目的が変更になればそれに合わせて膜材質を交換するというのを
医師に相談することができれば、医師からも認められる臨床工学技士に一歩近づけます。
一緒に頑張りましょう!