人工心肺装置は心臓の外科的手術を行う際に必須になる機械です。
臨床工学技士の業務の中でも花形ともいわれる程人気のある業務ですが、
命に直結するような重要な業務でもあります。
そんな人工心肺業務に関わりたいという場合、まずは回路の構成を知るところから始まります。
しかし、機械自体が大きいこともあり、透析回路のように分かりやすい感じではありません。
そのため、複雑で理解が難しいと感じる方もいると思いますが、今回はそんな人のために
0からでも理解できる人工心肺の回路について説明していきます。
ぜひ見て行ってください!
- 人工心肺回路の回路構成がわかる
人工心肺回路の構成について
人工心肺装置の回路構成について理解するためにはまず、全体の回路図を把握する必要があります。

人工心肺装置の回路構成は大きく分けて5種類に分かれます。
- 送血回路
- 脱血回路
- 血液濃縮回路
- 心筋保護回路
- 吸引回路
送血回路・脱血回路
まずは送血回路と脱血回路です。
この回路は人工心肺装置のメイン回路となります。

- 貯血槽
- ポンプ(ローラーor遠心)
- 熱交換器
- 人工肺
- 動脈フィルター
- 気泡センサ
メイン回路の流れを脱血した時点から血液の流れに沿って説明すると以下のようになります。
- 心臓から血液(静脈)を脱血する
- 脱血した血液が貯血槽に貯留される
- ポンプによって送血される
- 熱交換器で血液を加温し、人工肺で血液を酸素化する
- 動脈フィルターで不純物を除去する
- 気泡センサで気泡がないことを確認し、心臓に血液(動脈)を返血する
1.心臓から血液(静脈)を脱血する
まず、人工心肺装置で心臓を脱血するために脱血部位を決める必要があります。
この脱血部位については主に3ヵ所存在しています。
- 1本脱血(右心房・下大静脈)
- 2本脱血(上大静脈・下大静脈)
- 大腿静脈
基本的に右心房が手術に関係していない場合は1本脱血で行うことになります。
具体例としては大動脈弁置換術や大動脈弓部置換術などです。
逆に2本脱血の場合は心房・心室中隔欠損やMaze手術の場合が適応となります。
基本的に人工心肺を用いた開心術の場合はこのどちらかで脱血を行うことになりますが、
MICSや胸腹部大動脈置換術の場合は大腿静脈脱血で行う場合があります。
2.脱血した血液が貯血槽に貯留される
脱血した血液は基本的に全て貯血槽に集約されることになります。
貯血槽はメイン回路からの脱血した血液の他に、吸引回路から回収した血液も含まれます。
3.ポンプによって送血される
貯血槽に貯められた血液はポンプによって心臓に送血されることになります。
このポンプはローラーポンプか遠心ポンプのどちらかが使用されています。
これは自施設でどのポンプを使用しているのかを知っておく必要があります。
ちなみに当院では遠心ポンプを使用しています。
簡単に説明するとローラーポンプは回転数の維持が容易というメリットがあり、
遠心ポンプは回路閉塞した場合でも安全というメリットがあります。
4.熱交換器で血液を加温し、人工肺で血液を酸素化する
貯血槽からポンプで送血された血液は熱交換器と人工肺を通ります。
熱交換器は血液の加温、人工肺は血液の酸素化を行います。
現在の回路は熱交換器と人工肺が一体化しているものが多いですが、
血液の流れは必ず熱交換器を通ってから人工肺を通ります。
血液の流れが熱交換器→人工肺の理由
酸素化した後に血液の温度が上昇すると気化してしまい、回路内に気泡が混入する原因になる
なお、熱交換器は冷温水槽から送られてくる加温された水によって血液を加温することができます。
血液の温度を変更したい場合は冷温水槽の設定温度を変更する必要があります。
5.動脈フィルターで不純物を除去する
動脈フィルターで血液中に含まれている微小気泡や凝血塊、材料破片等を取り除きます。
このフィルターでこれらの物質が除去できなければ、
心臓に送血された後に塞栓症の原因になる危険性があるため、注意が必要です。
6.気泡センサで気泡がないことを確認し、心臓に血液(動脈)を返血する
動脈フィルターでも除去されるため、問題はないかもしれませんが、
安全性の向上のため、フィルター後に気泡センサが取り付けられていることが多いです。
また、人工心肺装置で心臓を送血するために送血部位を決める必要があります。
この脱血部位については主に3ヵ所存在しています。
- 上行送血
- 大腿動脈
- 鎖骨下・腋窩送血
まず、上行送血は一般的な送血方法で、開心術での送血の場合、ほとんどこの送血方法になります。
大腿動脈は大腿静脈脱血時と同じく、MICSや胸腹部大動脈置換術の場合が適応となります。
この2つの選択肢以外に、上行大動脈の石灰化が強い場合など、イレギュラーなパターンが
生じ、送血が困難となった場合は鎖骨下または腋窩送血が選択されます。
血液濃縮回路
つぎに、血液濃縮回路です。

血液濃縮回路は主に貯血槽の血液を濃縮する際に用いられる回路です。
主な用途としては血液希釈と循環血液量のコントロールを行うために、
余分な水分の除去を行います。
これはECUMとも呼ばれます。
人工心肺中は血液が希釈している方がいいのですが、希釈しすぎると逆効果になってしまうので
血液濃縮を行い、バランス調整を行っています。
当施設で使用している血液濃縮器は泉工医科株式会社のヘモクリスタルです。
ちなみにこの膜はPES(ポリエーテルスルホン)なのですが、
患者さんがPES膜アレルギーがある場合はCTA膜(セルローストリアセテート)など、別の膜を用います。
心筋保護回路
つぎは心筋保護回路についてです。

心筋保護回路は心筋保護液を投与するために使用される回路となっています。
心筋保護液は心臓を安全に停止させるために使用される高カリウムが含まれている保護液です。
人工心肺装置とは別に心筋保護装置という機械が別で付属されており、その機械を操作して投与を行います。
(機種によれば人工心肺装置とセットになっている機械もある)
心筋保護の投与方法は主に3種類存在しています。
- 大動脈基部投与(順行性心筋保護法)
- 冠動脈口から直接投与(選択的心筋保護法)
- 冠静脈洞から逆行性に投与(逆行性心筋保護法)
基本的に順行性心筋保護法が用いられます。
ただし、大動脈弁の閉鎖不全などがある場合はこの手法では行うことができません。
大動脈弁閉鎖不全症や大動脈切開を行う場合は、選択的心筋保護法が用いられます。
心筋保護液は順行性に流れることになります。
また、冠動脈狭窄がある場合は順行性での心筋保護は行うことができません。
その場合、逆行性心筋保護法が用いられます。
ただし、逆行性も狭窄部の先は心筋保護ができないため、順行性との併用が一般的です。
吸引回路
最後に吸引回路についてです。

吸引回路は3つローラーポンプから構成されていることが多く、このポンプの内、1箇所はベンティングを行うためのベント回路とも呼びます。
心嚢・心腔内の血液を吸引し、無血視野の確保をする目的
吸引回路は術野に置かれており、医師が任意の場所の吸引を行うために使用されます。
心腔内の血液を吸引し、血液を抜くことで以下の効果を得ることが目的
1.左室心筋の過伸展防止
2.手術視野の確保
3.心筋保護中の心筋温上昇防止
4.空気抜き
5.心機能回復までの仕事量軽減
ベント回路は心臓の内部に留置されており、人工心肺装置が駆動中、様々な効果を発揮してくれます。
ベントの挿入位置は以下の通りです。
1.左房・左室ベント
2.左室心尖部ベント
3.肺動脈ベント
4.大動脈ベント
最も一般的な挿入部位は左房・左室ベントです。
その他は特別な場合で用いることが多く、
左室心尖部ベントは心尖部に血液が貯留している場合
肺動脈ベントは三尖弁の形成で右房を切開する場合
大動脈ベントは心筋保護注入用のカニューレをそのままベントとして使用する場合が挙げられます。
- 人工心肺装置はメイン回路(送脱血)・血液濃縮回路・心筋保護回路・吸引回路で成り立つ
まとめ
今回は人工心肺装置の回路構成について紹介してきました。
人工心肺装置は回路が本当に複雑で、私自身も覚えるまでかなり時間がかかった気がします。
実際、現場で見るともっとごちゃっとしています。
しかし、回路構成がわかっていないと、トラブルがあった際の対応がそもそも分からないですし、
対応に困ってしまうのは目に見えています。
今回の記事を読んで回路構成が理解できれば幸いです。
一緒に頑張りましょう!