医療現場で患者対応をしているとSpO₂が急激に低下して呼吸困難になっている場面に
あうことがあると思います。
こんな時に酸素投与が行われ、SpO₂を90%後半ぐらいまで回復させることが必要となります。
これは低酸素血症などの改善に繋がる、一般的な治療なのですが、
徐々に上げていくというのが基本です。
ここで一気に高濃度の酸素をぶち込んだらいいやんって思ったことありませんか?
僕は学生時代にそれができないのは保険の兼ね合いだろうなと本気で思っていました。
もちろん、高濃度の酸素を一気にぶち込むと一気にSpO₂も上がるので、
そっちの方がいいのではと思ってしまうことはわかります。
ただ、医療現場で働くうえで、高濃度酸素投与が非常に危険だということも
知っておかなければいけません。
今回は、なぜ高濃度酸素投与が危険なのかについて紹介していきます。
高濃度酸素投与のデメリット
まず、高濃度の酸素投与が起きてしまう理由は、
過剰に血中の酸素濃度を上げようとしてしまうことです。
この時に、SpO₂は100%と表示されていることが多いため、何も考えずに数字だけを見ていると
全く異常がないように感じます。
たしかに、SpO₂の基準値は90%以上であるため、今現時点で問題はないというのは
基本的な考えです。
その考えは正しいのですが、この100%という数字の裏には過剰投与の可能性も隠されています。
このような過剰な酸素投与は酸素療法の合併症とも呼ばれ、主に3つの症状があります。
ここからはこの3つの合併症について解説していきます。
酸素中毒
酸素中毒は活性酸素、別名フリーラジカルによる細胞、組織の障害のことです。
主に障害される場所は肺や気管です。
そもそも酸素は細胞でエネルギーを作る際に活性酸素が発生します。
これは、人体の生理的現象なので抑制することは不可能ですし、むしろ人が生きていく上で
非常に重要な現象です。
ちなみに活性酸素は健常者にも存在していますが、
体内に備わっている抗酸化防止機構(アンチオキシダント)によって
障害が発生することを抑制してくれています。
そのため、酸素中毒は、抗酸化防止機構でも防ぐことのできないほどの過剰な活性酸素が
体内に生成された状態だということです。
具体的には気道内にある線毛の基底細胞を障害して、
線毛運動の低下により、気道浄化が障害されます。
線毛運動が機能していないと、痰がうまく吐き出すことができず、
症状が進行すると呼吸困難を引き起こす危険性があります。
吸収性無気肺
吸収性無気肺とは、肺胞内の酸素が血液に取り込まれて、
肺胞が萎んでしまうことにより、無気肺となってしまうことです。
基本的に、私たちの肺は大気中の空気を取り込んで、吐き出す動作を行うことで
呼吸を行っています。
その大気中の空気の約7割は窒素でできており、この窒素は体内に吸収されません。
一見不要な空気と思うかもしれませんが、この窒素が肺に残り続けることによって、
肺は膨らんだままでいてくれます。
では、酸素はどうなのかというと、肺は体内に酸素を取り込む器官ですので、
どんどん体内に取り込まれていきます。
この時、酸素投与を行っている状態ですと、取り込む空気に酸素ばかりが含まれており、
肺に残る空気がほとんどありません。
この状態ですと、肺が膨らんだ状態を保つことができず、空気を含まない肺という
無気肺の状態となります。
この状態が長く続いてしまうと、肺が元に戻らなくなってしまう恐れもあるため、
非常に危険です。
CO₂ナルコーシス
CO₂ナルコーシスはこの3つの合併症の中でも最も重篤なもので、
最悪の場合呼吸停止を引き起こす恐ろしい症状です。
酸素投与をしている患者さんを管理する上で最も気にするべき症状でもあります。
そもそも低酸素状態だから酸素投与してるのになんで呼吸が停止するの?
と疑問に思うと思います。
COPDのようなⅡ型呼吸不全の患者の場合、
患者の体内環境は低酸素、高二酸化炭素の状態です。
この時には当然SpO₂も低下しているので治療のファーストチョイスとして酸素投与というのは
やりがちなパターンです。
しかし、ここで酸素投与をしてしまうと、SpO₂は改善され、一安心と思ってた矢先、
呼吸抑制・・・
なんてこともありえます。
つまり、CO₂ナルコーシスの原因は、患者の体内環境が
高酸素、高二酸化炭素の状態になったことです。
そもそも人が呼吸をするのは主に二つの理由があります。
1つは高二酸化炭素の状態
もう1つは低酸素の状態
この状態になると、人の脳の呼吸中枢が反応して、呼吸を行います。
ただし、COPDのような慢性期の呼吸不全の場合、高二酸化炭素の状態というのは
当たり前の状態になってしまい、徐々にこの状態でも呼吸中枢が反応しなくなります。
その一方で、低酸素の状態は維持されているので呼吸は引き続き継続されます。
このタイミングで酸素投与をしてしまうと、低酸素は改善され、
高二酸化炭素の状態であるにも関わらず、呼吸中枢が反応しなくなり、
呼吸抑制、呼吸停止に繋がります。
これがCO₂ナルコーシスです。
まとめ
今回は酸素投与による合併症について紹介してきました。
呼吸苦を生じた患者にとって酸素療法というのは非常に有効で、
手軽に行うことができることから、
医療現場でもよく見る治療法となっています。
しかし、低酸素だからと安直に酸素投与を行ってしまうと合併症を引き起こしてまい、
逆に呼吸困難が悪化したなんてこともありえます。
特に、COPDのようなⅡ型呼吸不全に対して酸素投与のみ行うというのは
非常に危険な行為ですので、そのよう治療を行おうとしている際は必ず止めましょう。
酸素療法について基本的な分野ですのでぜひ覚えておきましょう!
一緒に頑張りましょう!