皆さんは心拍出量を測定する際にどんな検査を想像しますか?
多くの方は右心カテのスワンガンツカテーテルを用いた熱希釈法ですよね。
もちろんその方法が最も数値としても信頼できるのは言うまでもないのですが、
カテ室に行って静脈に穿刺し、時には冷却水を心臓内に注入される。
そんな侵襲的な検査方法となります。
これが簡単にカテ室に出棟できるような患者さんならいいのですが、
大量の薬剤と人工呼吸器が装着された状態などであれば
そのまま安静にしている方が安全ではあります。
そんな時に非侵襲的かつ簡易的に心拍出量が測定できればいいのにな・・・
という感じで開発されたのが日本光電社のオリジナルパラメータであるesCCOです。
今回はこのesCCOの魅力について紹介していきます。
まだ院内では入っていないよという方も、
もうすでに院内で採用されているという方も最後まで見て行ってください。
esCCOとは
esCCO(estimated Continuous Cardiac Output)は非侵襲連続推定心拍出量のことです。
このesCCOの最大の特徴は非侵襲で測定している基本的なモニタリングパラメータを用いて
連続的に推定心拍出量の算出を行う技術のことです。
esCCOを測定する際に必要な情報は
心電図
SpO₂
血圧(NIBP)
の3種類です。
普段からどんな患者さんでもモニタリングしているような基本的な情報のみで
心拍出量を測定することができるというわけです。
ではどのようにして測定しているのかというと、心電図のR波からSpO₂の脈波立ち上がりまでの時間(PWTT)が
一回拍出量とよく相関していることを活用して測定しています。
PWTTについて
PWTT(Pulse Wave Transit Time)は脈波伝播時間のことで、
心電図のR波から末梢で測定したSpO₂脈波の立ち上がりまでの時間のことです。
この抹消で測定したSpO₂というのは、基本的に右や左の指で測定していることが多いです。
どうしても指で測定できない場合は足の指で測定することもありますが
足への装着は推奨されていないので、指から測定するのが理想的です。
また、非侵襲であるため、新生児にも使用したいところなのですが、
こちらに関しては有効性が確認されていないため使用時は注意が必要です。
PWTTは血圧の変化によっても変化し、
血圧が上昇している場合はPWTTが短縮
血圧が低下している場合はPWTTが延長
という風に変化します。
これは血圧の変動によって血管壁の硬さが変化することも関係しています。
つまり、
PWTTが短ければ短いほど、脈波の伝番速度が上がる=心臓の拍出量が多くなっている=心拍出量増加
という風に考えられます。
逆にPWTTが延長すればするほど心拍出量は低下しています。
ちなみにPWTTは拍出毎に得られる値ではあるのですが、生理的な変動やノイズの影響を受けやすいという
弱点もあるので、注意が必要です。
esCCOの使用方法
esCCOは日本光電社製の商品となっているため、
基本的には日本光電社のベッドサイドモニターが無ければ測定できません。
ベッドサイドモニターについては型式が
CSM-1000シリーズもしくはPVM-4000シリーズである事を確認してください。
また、esCCOを測定する際はより精度の優れたSpO₂の測定が必須になるため、
専用のプローブが必要となります。
ちなみに、esCCOが使用できるはずなのに測定できない!という場合は中継ケーブルをご確認ください。
この中継ケーブルは青色ケーブルである必要があります。
私も上手く測定できなくてなんでなんだと思っていると灰色のケーブル(旧型)であったことがありました。
SpO₂はこれでも普通に測定できるので意外な落とし穴です。
また、校正する際にも別途情報が必要で、
患者属性(年齢、BSA、性別)と血圧です。
患者属性は心拍出量、血圧は脈圧の校正に必要となります。
血圧はここまでNIBPで測定すると説明してきましたが
実はAラインが挿入されている患者さんでも測定できます。
ただ、esCCOの最大の特徴は非侵襲での心拍出量測定ですので、
侵襲的な測定方法であるAラインについては補足程度で覚えておいてください。
esCCOの測定にはAラインは不要です。
(AラインからesCCOを測定する際は校正画面でARTを選択する必要があります)
esCCOの注意点
esCCOは容易に測定できる反面、生理的な変動やノイズの影響を受けやすいという弱点もあります。
そのため、使用には注意点があり、その原因のほとんどは
心電図もしくは血圧が測定できない、大きく変動する、安定しないということです。
仮にecCCOの測定値が出力されていたとしても参考にするのは難しいです。
(SpO₂が測定できないと他が安定していても出力は不可能)
注意しなければいけない点については以下の通りです。
心電図上の異常(不整脈)
心房細動、心房粗動などの上室性のリズム不正
二段脈、三段脈
ペーシング中の患者
房室ブロックが発生している患者
脈圧の異常(無脈、圧変動)
人工心肺中
大動脈クランプ中
心タンポナーデ状態
IABP中
その他
肥満症 (患者属性から算出される心拍出量の校正に異常が生じるため)
動脈硬化症(PWTTに異常が生じるため)
非侵襲で測定できることが魅力のesCCOですが、
バイタルの安定している患者かつ不整脈、ペーシングのない患者での測定が理想的であるため、
実際に私も使用した患者さんの測定値が出せないということがよくあります・・・
ただ、その点を考えても非侵襲である点は魅力的です。
esCCOの活用
ではどんな場面でesCCOは本領を発揮するのかというと
手術や麻酔を受ける患者への安全・安心を保証するための指標として活用することです。
人工心肺などを使用する心臓外科領域の手術での使用は難しいのですが、
Aラインをとる必要がないですが、循環動態の変化が起こる可能性がある症例で活用することができます。
例えば
腹腔鏡手術
帝王切開
高齢者麻酔
などです。
これらの麻酔使用時の手術は患者さんが急変する可能性もあるので、
esCCOが測定できると患者さんのバイタルが変化していないという安心材料の一つにもなります。
特に腹腔鏡手術は低侵襲が売りの手術でもあるため、非侵襲のesCCOとは非常に相性がいいです。
また、高齢者麻酔に関しては、例え簡易的な手術であったとしても高齢者には急変する危険性があるため、
注意が必要です。
Aラインを挿入しない手術の場合でもより注意が必要となるため、esCCOの測定は非常に有効です。
このように、簡易的かつノーリスクで心拍出量が測定できるというのがesCCOの最大の魅力です。
まとめ
今回は非侵襲で心拍出量を測定できるesCCOについて紹介してきました。
心電図、SpO₂、血圧の3つの基本的なパラメータだけで心拍出量を測定できるというのは
非常に有効的な場面が多いです。
急変リスクのある患者だけど侵襲的な処置をする必要がない場合は意外と結構あるため、
選択肢の一つとしてesCCOがあるだけで視野が広がります。
使用時の注意点としては心電図、血圧の変動に弱いという点です。
この点はしっかり理解して、手術室、ICUなどで使用する際に注意しましょう。
一緒に頑張りましょう!