臨床工学技士が押さえるべき救命処置の基本と心停止対応、薬剤管理の実践ガイド | みんなのMEセンター

臨床工学技士が押さえるべき救命処置の基本と心停止対応、薬剤管理の実践ガイド

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救命処置について 集中治療

突然、目の前で患者が心肺停止の状態に陥ったとき、あなたは正しい行動を取れますか。
現場では、心電図やモニターだけに頼らず、
まず患者の呼吸や脈拍、体動など直接的な状態を確認することが最も重要です。

初心者であれば「どこから手をつければよいか分からない」、経験者でも「現場での判断に迷う」といった
状況は珍しくありません。

本記事では、臨床工学技士として知っておくべき救命処置の基本、心停止時の波形の見方、
救命に使用する主な薬剤について解説します。

これを理解することで、現場での判断力と対応力を大幅に向上させることができます。

実際にはICLSやACLSといった医療従事者向けの救命処置の講習を受けるのがいいですが、基礎知識を知っておくことも重要なのでぜひこの記事で確認してみてください。

この記事を読んでわかること
  • 救命処置の手順について
  • 心停止時の波形について
  • 救命処置に使用する薬剤について
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救命処置の重要性と流れ:BLSからALSまで

突然目の前で患者が心肺停止や呼吸停止に陥った場合、救急隊が到着するまでの時間が非常に重要です。
一般的に、心停止後の脳や重要臓器は酸素不足により、わずか数分で不可逆的な障害が始まります。

具体的には、脳は酸素が途絶えてから約4分で神経細胞の損傷が始まり、
6分を過ぎると重篤な脳障害のリスクが急速に高まります。
10分以上救命処置が行われない場合、生存率は著しく低下します。


この時間に行う一次救命処置(BLS: Basic Life Support)は、胸骨圧迫、人工呼吸、AEDの使用、
気道異物除去などを含み、医療従事者でなくても正しく実施すれば救命率を大きく高められます。

統計的には、心原性心停止を市民が目撃したケースでBLSを行った場合の生存率は約14.8%、
行わなかった場合は7.3%と、ほぼ2倍の差があることが確認されています。
BLSはCPR(心肺蘇生法)の基本部分であり、AEDによる除細動もBLSに含まれるため、
初期対応として非常に重要です。

BLSの実施後はALS(Advanced Life Support:二次救命処置)に引き継ぎます。
ALSでは医療従事者が、心電図による心停止パターンの識別、気管挿管、薬剤投与、除細動など
高度な処置を行います。

心停止の種類や可逆的原因を把握し、適切に治療を行うことがALSの役割です。
BLSで迅速かつ正確な初期対応を行うことは、ALSにスムーズに引き継ぐための前提であり、
患者の生存率を左右する重要な要素となります。

  • BLSは心肺停止直後に行う、一般市民も実施可能な初期救命処置である
  • ALSは医療従事者による高度な救命処置で、心停止の種類や原因に応じた対応が可能
  • BLSでの迅速な初期対応が、ALSへのスムーズな引き継ぎと生存率向上に直結する

具体的な救命処置の流れ

突然の心肺停止に直面した場合、救命処置は一般市民でも行えるBLS(一次救命処置)から、
医療従事者が行うALS(二次救命処置)へと段階的に進みます。

この流れを理解しておくことが、救命率向上に直結します。

BLS(一時救命)

BLSは、心停止や呼吸停止を発見した直後に開始する処置で、救急隊が到着するまでの“初期対応”です。
基本の手順は以下の通りです。

BLSの手順
  1. 安全確認
    周囲の安全を確保する
  2. 反応の確認
    肩を軽く叩き、「大丈夫ですか」と声をかけて意識を確認
  3. 呼吸と脈拍の確認
    呼吸がなければ胸骨圧迫開始、脈は確認できなくても心停止として対応
  4. 救急要請
    119番通報とAED手配
  5. 胸骨圧迫(CPR)
    胸の中央を強く、テンポよく圧迫(深さ5~6cm、1分間100~120回)
  6. 人工呼吸
    可能であれば2回の人工呼吸(マスクがある場合)、胸骨圧迫との組み合わせ
  7. AEDの使用
    除細動の必要性を判断し、指示に従ってショックを実施

BLSのポイントは、救急隊が到着するまでの間、血液循環と酸素供給を人工的に維持することです。
応急手当の有無で生存率に大きな差が出ることが統計的にも示されています。

臨床工学技士と勤務している場合、当然ですが院内発症の場合もあります。
しかし、基本的には同じ流れで、救急要請が応援要請に変わる程度です。

応援要請の場合(除細動器、モニターの手配や救急要請(コードRなど)

BLSを確実に実施するために以下のステップをABCD形式で覚えておくと便利です。

BLSのABCD

Airway:気道の確保
Breathing:呼吸の評価と人工呼吸
Circulation:循環評価と胸骨圧迫
Defibrillation:心電図評価と電気ショック

ALS(二次救命処置)

救急隊や医療従事者が到着したら、BLSに続きALSが開始されます。
ALSはより高度で専門的な救命処置です。

院内発症の場合は救急要請よりも短時間でこの段階まで移行します。
医療従事者である場合は特にこのALS(二次救命)の手順を把握する必要があります。
なお、ALSはBLSの延長といったイメージです。

手順は以下の通りです。

ALSの手順
  1. 心電図モニター装着
    心停止の波形(VF、VT、PEA、asystole)を確認
  2. 気道確保
    気管挿管やバックバルブマスクを使用し、確実な酸素供給
  3. 薬剤投与
    アドレナリンや抗不整脈薬(アミオダロンなど)を適切なタイミングで投与
  4. 除細動
    心室細動や無脈性心室頻拍では速やかに電気ショック
  5. 原因検索と治療
    可逆性の原因(低酸素、低カリウム、心タンポナーデなど)を特定し、必要に応じて処置
  6. ROSC(自発循環回復)確認
    心拍再開後は血圧や酸素飽和をモニターし、ICUへ引き継ぎ

このように、BLSとALSは共にROSCさせることが目標となっています。
ROSCさせるためには原因検索と治療を行うことが非常に重要となります。

ALSを確実に実施するために以下のステップをABCD形式で覚えておくと便利です。

ALSのABCD

Advanced airway:高度な気道の確保
Breathing:酸素化と補助換気
Circulation:心電図モニター・薬物投与路確保・薬物投与
Defibrillation diagnosis:原因の検索と是正

心停止時の波形について

心停止時の心電図波形は、救命処置の戦略を決定する上で欠かせない情報です。
しかし、心電図だけに頼ると誤判断のリスクがあります。
臨床現場では「モニターを見るな、人を見よ」が基本です。
呼吸・脈拍・体動など、患者の状態を最優先に確認することが重要です。

心停止の波形は大きく4種類に分類され、除細動が必要かどうかで2つに分けられます。

心停止時の波形(除細動必要)

1. 心室細動(VF:ventricular fibrillation)
VFは、心筋が無秩序に震えている状態で、有効な血液拍出がありません。
心電図ではP波やQRS波がなく、不規則な基線のゆれだけが観察されます。
救命処置としては速やかな除細動と胸骨圧迫が必要です。

2. 無脈性心室頻拍(pulseless VT)
幅の広いQRS波が短い間隔で連続する心室頻拍ですが、脈拍が触れなければ「無脈性」と判断します。
VF同様、除細動と心肺蘇生が必須です。
患者の血圧や意識状態を確認することで、無脈性かどうかを正確に見極めます。

心停止時の波形(除細動不要)
  1. 心静止(asystole)
    心電図上はただの横線で、心臓が活動していない状態です。
    電極外れや感度設定低下でVFを見逃すことがあるため、
    フラットライン・プロトコール(リード確認、感度調整、誘導切替)で真の心静止かを確認します。除細動は不要で、胸骨圧迫と人工呼吸を継続します。
  2. 無脈性電気活動(PEA:pulseless electrical activity)
    心電図上は正常波形に見える場合もありますが、脈拍がなければPEAと判断します。
    除細動は不要で、胸骨圧迫と人工呼吸を行いながら二次ABCDサーベイで原因検索を行います。

PEAの原因として考えられる項目として4H4Tがあります。

  • 低酸素症
  • 循環血液量の減少
  • 低カリウム血症、高カリウム血症、代謝性アシドーシス
  • 低体温
  • 緊張性気胸
  • 心タンポナーデ
  • 急性中毒
  • 急性感症候群、肺血栓塞栓症
  • 心電図波形は除細動の必要性を判断するために用いられる
  • VF・無脈性VTは除細動必須、PEA・心静止は除細動不要
  • フラットライン・プロトコールで心静止の誤認を防ぐ

救命処置に使用する主な薬剤

急変時に使用する薬剤は、心臓や血管の状態を大きく変化させるため、正確な理解が必須です。
特に心肺蘇生中は判断の遅れがそのまま転帰に影響するため、
作用・投与方法・注意点を整理しておくことが重要です。

まず中心になるのはアドレナリンです。
心停止時の第一選択薬で、末梢血管を強く縮める作用と心拍出量を増やす作用があります。
これにより血圧を上げ、重要臓器への血流維持を図ります。
標準投与量は1mg静脈投与で、CPRのサイクルに合わせて反復します。アドレナリンは血圧を上げる一方、
心筋酸素消費量を増やし不整脈のリスクも高めるため、効果と負荷を理解したうえで使う必要があります。

アドレナリンについての詳細はこちらの記事を参考にしてください。

次にアミオダロンです。
致死性の心室性不整脈に対し最も信頼されている薬剤で、VFや無脈性VTに対する第一選択薬です。
複数のイオンチャネルを抑え、不整脈を落ち着かせる働きがあります。
急性期では心機能抑制がほとんどないため、心停止中にも安全に使われます。
投与後は血圧低下の副作用が起こり得るため、継続モニタリングは必須です。

アミオダロンについての詳細はこちらの記事を参考にしてください。

なお、アミオダロンが使えない状況ではリドカインが代替手段として用いられます。
心室の興奮を抑える即効性があり、心機能への影響は比較的少ないのが特徴です。
心室性不整脈の改善が期待できますが、まれに血圧低下やショックを起こす可能性があるため、
使用時には患者状態をこまめに確認する必要があります。

緩衝薬として代表的なのがメイロン(炭酸水素ナトリウム)です。
長時間の心停止や高度のアシドーシス、高カリウム血症が疑われる場合に使用します。
ただし、基本的な心肺蘇生が優先であり、ルーチン投与は推奨されません。
換気不足がある状態で投与すると逆効果になることもあるため、適応は慎重に判断します。

薬剤の名称については、アドレナリンとエピネフリンとボスミンが
同じ薬である点を理解しておくことが大切です。
医師から「エピネフリン用意して」と指示されても、
一般名と商品名の違いを把握していれば迷わず対応できます。
急変時は焦りやすく、普段なら理解していることが混乱のもとになります。
日頃から名称や作用を整理しておくことが安全につながります。

  • アドレナリンは心停止時の中心薬剤であり、強い血管収縮作用を持つ
  • アミオダロンは致死性心室性不整脈の第一選択薬で、心機能を落としにくい
  • メイロンはアシドーシス改善が目的で、ルーチン投与は不要である

まとめ

突然の心停止は、発生から数分で脳の回復が難しくなるため、最初の行動が予後を左右します。

救命は時間との勝負であり、知識と行動の質が患者の生存率を左右します。
今回の内容を現場で再現できるレベルまで整理し、
日々の業務で確実に活かせるよう準備しておくことが重要です。

医療従事者ならできて当然と言われがちですが、実際に現場を前にするとパニックになることはよくあります。
繰り返し手順を振り返り、体で覚えさせることが最も近道だと思います。

ちなみにICLSは日本救急医学会が主催の適切なチーム蘇生を習得できるコースとなっています。
ACLSというアメリカ主となっている講習に比べ、資格取得の費用や講習日程も短いうえ、
日本の実臨床でも活用できる内容となっているため、興味がある方は是非受講してみてください!

一緒に頑張りましょう!

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