心臓や肺の働きが急に弱ったとき、体を守る最後の支えとなるのがV-A ECMO、PCPSです。
しかし、実臨床の現場ではその緊急性の高さから怖がる人も多いと思います。
実際に私は今でもV-A ECMOを挿入する現場になると緊迫感があり、正直立ち合いたくはありません。
ですが、患者さんの命を救うためには必要不可欠な処置となるので絶対に抑えておくべきポイントです。
導入時のポイントについてはこちらの記事を参考にしてください。
この記事では、V-A ECMO、PCPSの基本的な仕組みから臨床での使い分け、
運用で必ず押さえるべき管理の考え方までを順序立てて説明します。
初心者が感じる疑問を解消しつつ、経験者にも再確認となる視点を盛り込み、
日常の現場でそのまま活かせる内容を目指しています。
- V-AECMOについて
- メリット・デメリットについて
- 適応疾患と禁忌について
V-A ECMO/PCPSの基本構造と働き

V-A ECMO、PCPS(以下V-AECMO)は心臓と肺の働きが急激に弱ったときに、
血液の循環と酸素交換を機械で代わりに担う方法です。
どちらも構造は同じで、静脈から血液を引き出し、
人工肺でガス交換を行い、動脈へ戻す仕組みになっています。
そんなV-AECMOの回路構成は以下のようになっています。
- 脱血管(静脈側カニューレ)
大腿静脈から挿入し、先端を右心房付近に留置。
血液を体外循環回路へ吸引する役割。
太さは18~22Fr程度が選択される。 - 遠心ポンプ
血液を循環させる駆動装置。
吸引した静脈血を一定の流量で送血管へ送り出す。 - 膜型人工肺(酸素化器)
血液中に酸素を供給し、二酸化炭素を除去する装置。
呼吸補助の機能を担う。 - 送血管(動脈側カニューレ)
大腿動脈から挿入し、先端を腹部大動脈~総腸骨動脈に留置。
酸素化された血液を体循環に戻す。
太さは15~20Fr程度。
V-A ECMOでは全身の血流の向きが変わることも理解しておく必要があります。
通常、心臓は自分の力で全身に血液を送りますが、装置を使うと動脈側に強い逆流が生じます。
それにより様々な影響が生じますがそれは後述させていただきます。
回路構成自体は単純で、カニューレと循環補助の役割がある遠心ポンプ、
肺補助の役割がある人工肺で構成されている閉鎖回路です。
人工肺の働きは、酸素を入れるだけではありません。
血液に酸素を補充するだけでなく、二酸化炭素(CO₂)を取り除く機能も持っています。
これは人工肺に送り込まれる酸素の流量を調整することでCO₂の調整を行うことができます。
- 酸素の補充
酸素濃度(FiO₂で管理) - 二酸化炭素の排出
酸素流量で管理(O₂L/minで管理)
そのため、二酸化炭素の調整によりアシドーシスやアルカローシスとなることがあり、
これが心臓の収縮力や血管の反応性に影響します。
pHについてはこちらの記事を参考にしてください。
また、酸素化を良くするために流量を上げすぎれば、静脈から十分な血液を吸えず、
回路内に陰圧がかかって泡が生じることがあります。
この泡は危険で、回路停止につながるため、常に回路の音や波形を細かく確認する必要があります。
(遠心ポンプで詰まってしまう)
こうした背景を理解すると、V-A ECMOは単に回路をつなぐだけではなく、
患者の循環そのものを作り替える治療であることがわかります。
適切な脱血と送血、後負荷の調整、人工肺の扱い、体位変化の管理が、治療の成功を左右します。
- 静脈脱血と動脈送血により循環を作り替える治療である
- 流量調整は後負荷と左室の拡がりを見ながら行う必要がある
- 回路の位置や人工肺の働きが全身の血流に大きく影響する
V-AECMOのメリット・デメリット
つぎは、V-AECMOのメリット・デメリットです。
- メリット
- 短時間で循環補助を開始できる(救急外来や集中治療室での導入が可能)
- 導入に必要な器具が少なく準備が容易
- 動脈送血により全身灌流を迅速に改善
- 腎臓や脳など重要臓器への血流確保がしやすい
- デメリット
- 後負荷の増加により左心室圧が上昇し、肺うっ血や酸素化悪化のリスク
- 脱血・送血カニューレの位置によって循環効率や心負荷が変化
- 下肢虚血、回路内血栓、出血、空気混入、感染、溶血、血小板減少など合併症が多い
- 長期使用には向かず、心臓・肺の回復がなければ離脱困難

V-AECMOの最大の強みは、非常に短い時間で循環補助を開始できる点です。
穿刺による導入であるため、カテーテル室だけでなく救急外来や集中治療室でもすぐに使用でき、
心停止や急激な循環不全の場面で大きな効果を発揮します。
導入に必要な器具も比較的少なく、ポンプ・人工肺・カニューレ・回路が揃っていれば運用できるため、
準備の容易さも利点です。
また、動脈へ直接流れを返すため、全身の灌流を素早く改善し、
腎臓や脳など重要な臓器への血流が確保されやすい点も臨床上大きな価値があります。

ただし、PCPSには弱点も多く、特に後負荷の増加が問題になります。
動脈へ強い逆行流を送るため、心臓が押し出す力が上がり、左心室が拡がりやすくなります。
もし心臓が弱っているまま流量を上げれば、左室内に血液がたまって圧が上昇し、
肺のうっ血や酸素化悪化につながります。
これに気づかず管理すると、循環は保たれても心臓の中では負担が増え続ける状態となり、
治療として望ましい効果が得られません。
これを避けるためにIABPを併用したり、左室の減圧を目的とした方法を追加する場合があります。
後負荷についてはこちらの記事を参考にしてください
また、カニューレの位置も重要です。
- 脱血位置
静脈側の管は右心房付近に置かれるが、位置が浅いと十分な血液を吸えず、
深すぎると心房を吸い込む危険があります。 - 送血位置
腹部の大動脈付近に置かれるが、先端が深く入りすぎると内臓へ偏って流れが入り、
浅すぎると逆行する流れが強くなり、心臓の出口に人工的な流れがぶつかる形になります。
こうした位置のズレは循環不全や装置の流量低下につながるため、体位変換や移動のたびに注意が必要です。
合併症も多く、特に問題となるのは下肢の血流不足です。
大腿動脈に太い管を置くため、管の下流へ十分な血流が行かなくなり、足の冷感や色の変化が現れます。
長時間続けば壊死につながるため、予防として細い管を追加して足へ血流を送ることもあります。
これについてはこちらの記事を参考にしてください
さらに、回路内血栓、出血、空気の混入、感染、溶血、血小板減少など、循環の安定を脅かす要因も多く、
細かな観察が欠かせません。
また、V–AECMOは一時的な治療であり、数日から数週間の期間が使用の限界です。
心臓や肺が回復しなければ離脱は難しく、長期間の依存を想定した装置ではありません。
離脱の判断には循環の安定だけでなく、心臓が自分の力を取り戻せているかを慎重に確認する必要があります。
臨床工学技士に求められるのは、緊急導入のサポートだけではなく、運用中のわずかな変化の察知、
回路の異常の早期発見、後負荷や左室の状態を踏まえた設定の最適化です。
流量を上げるだけでは改善しない理由を理解しているかどうかが、PCPS管理の質を大きく左右します。
- 緊急導入が容易で全身の血流を早く改善できる
- 動脈送血により後負荷が上がり左室拡大を起こしやすい
- 下肢血流不足や回路トラブルなど合併症が多く注意が必要である
適応疾患について
V-AECMOは、心臓や肺の機能が著しく低下し、
通常の治療だけでは生命維持が困難な場合に使用される医療機器です。
- 適応疾患
- 重症心不全(心筋梗塞や心筋炎でIABP施行下でも心係数が低下している場合)
- 難治性・再発性の心室性不整脈(心室頻拍・心室細動)
- 急性冠症候群での冠動脈形成術までのブリッジ
- 急性肺血栓塞栓症による循環不全
- 偶発性低体温による循環不全
- 心肺停止後の蘇生例
- 禁忌
- 非可逆的な脳障害
- 大動脈解離
- 止血困難な進行性出血
- 末期の悪性疾患
心筋梗塞や心筋炎で心拍出量が著しく低下している場合、IABP(大動脈内バルーンパンピング)では
十分な循環補助が得られないときに、PCPSによる心肺補助が選択されます。
さらに、薬物で制御できない心室頻拍や心室細動などの難治性不整脈に対しても、
血液循環を安定させるために適応となります。
急性冠症候群や心筋梗塞の治療までのブリッジとして、血液循環を維持する目的で使用されることもあります。急性肺血栓塞栓症による循環ショックや、低体温状態による循環不全、心肺停止後の蘇生例でも、心臓や肺の機能回復を支える手段として導入されます。
つまり、PCPS・V-AECMOは回復可能な重症心肺障害に対する
一時的な生命維持手段として位置付けられるのです。
一方で、非可逆的な脳障害、大動脈解離、進行性の止血困難な出血、末期悪性疾患などは禁忌です。
こうした患者に導入すると予後改善が期待できず、かえってリスクが増大するため、
適応判断は慎重に行う必要があります。
また、導入の際は患者の全身状態や既往歴、血管の条件も考慮し、
臨床工学技士として正確な回路準備と管理が求められます。
- 一時的な循環・呼吸補助が目的である
- 適応は回復が期待できる重篤な心肺障害が中心である
- 禁忌疾患の確認と全身評価が導入前に必須である
まとめ
V-AECMOは重篤な心肺機能障害に対して生命を維持するための重要な医療機器であり、
臨床工学技士の正確な知識と管理能力が患者の予後に直結します。
装置の仕組みや回路構成、挿入部位や管理方法を理解することはもちろん、
合併症への迅速な対応やカテーテルの位置確認、血流や出血の観察など、日常のケアが非常に重要です。
また、導入適応や禁忌疾患を正しく判断することは、不要なリスクを避けるうえで欠かせません。
これらを理解し実践することで、臨床現場での判断力や技術力を高め、
患者の安全と生命維持に大きく貢献することができます。
一緒に頑張りましょう!







