PaCO₂は呼吸不全の評価に欠かせない指標ですが、
「正常値は知っているものの、実際にどのように読み解けばよいのか分かりにくい」と感じる
臨床工学技士は多いです。
特にpHとの関係や換気量とのつながり、さらに脳への影響までを一つの流れで理解するのは難しいと
感じる場面があるはずです。
本記事では、PaCO₂の基本から高値・低値が示す状態、
そして脳血流との重要な関連までを体系的に整理します。
PaCO₂を深く理解することで、呼吸管理の精度だけでなく、病態把握の幅が大きく広がります。
- PaCO₂について
- PaCO₂の高値と低値について
PaCO₂について

PaCO₂は、動脈血の中に含まれる二酸化炭素がどの程度の圧力で溶けているかを示す数値で、
呼吸の評価で最も中心に位置する指標です。
体内では常に二酸化炭素がつくられていますが、その量は呼吸によって調整されます。
肺胞に到達した二酸化炭素は呼気として体外へ排出されるため、
PaCO₂を測定すると肺胞への運搬と排出の状態を直接把握できます。
このため、換気の良し悪しを判断するうえで非常に信頼性が高い項目になります。
PaCO₂は酸塩基の変化とも密接に関係し、二酸化炭素が上がると体液は酸性に傾き、
下がるとアルカリ性に傾きます。
これは二酸化炭素が体内で酸性として働くためです。
したがってPaCO₂を読む際は、換気と酸塩基の二つを同時に確認する必要があります。
pHの異常を見つけた場合、その原因が換気なのか、もしくは代謝の問題なのかを判断する起点にもなります。
PaCO₂を理解するうえで重要なのが、二酸化炭素の産生量と肺胞換気量の関係です。
産生が増えるか換気が減ればPaCO₂は上昇し、産生が減るか換気が増えればPaCO₂は低下します。
この関係がはっきりしているため、数値が基準から外れた際に何が起こっているかを推測することが
容易になります。
たとえば換気が弱いのか、体が二酸化炭素を多くつくる状態になっているのかなど、
病態の方向性をつかむうえで役立ちます。
- PaCO₂の正常値:35〜45mmHg
- 新生児:33mmHg
- 乳児:34mmHg
- 小児:37mmHg
成人と小児や新生児ではPaCO₂の正常値が異なる点にも注意が必要です。
これは呼吸の仕組みや代謝の量が年齢で変化するためで、
集中治療・新生児治療・小児治療に関わる臨床工学技士にとっては欠かせない知識です。
さらに重要なのが、PaCO₂は脳の血流とも深く結びついている点です。
二酸化炭素には脳の血管を広げる作用があるため、値が変わると脳血流も変動します。
PaCO₂が高いと血流が増え、PaCO₂が低いと血流が減るため、神経症状の評価にも関わります。
このようにPaCO₂は呼吸管理だけでなく、全身状態の把握にも直結する項目です。
- PaCO₂は換気と酸塩基の両方を評価できる中心的な指標である
- 年齢により正常値が異なるため、領域に応じた判定が不可欠である
- 脳血流と密接に関係し、神経学的な観察にも影響する指標である
PaCO₂が高値のリスク

PaCO₂が45mmHgを超えて高くなる場合は、
体内で産生された二酸化炭素が十分に排出されていない状態を示します。
これは換気が不足しているという意味で、呼吸不全の重要な兆候になります。
体が二酸化炭素を適切に外へ出せない原因は、大きく分けて気道の通り道の障害と、
呼吸の指令や筋肉の働きに問題がある場合の二つです。
気道の通りが悪くなる場合として、喘息、肺気腫、COPD、異物の吸引などがあります。
これらでは空気の通り道が狭くなり、吸気よりも呼気の排出が特に難しくなります。
結果として、二酸化炭素が肺胞に蓄積し、PaCO₂が上昇します。
慢性疾患ではゆっくり進む一方で、喘息の重い発作や異物による急な閉塞では急速にPaCO₂が上がり、
意識障害へ進行する危険があります。
もう一つの方向性は、呼吸そのものを動かす仕組みが低下する場合です。
麻薬や鎮静薬の過剰投与、脳血管障害、テトロドトキシンによる神経の遮断、
筋ジストロフィーや重症筋無力症などが該当します。
呼吸中枢の働きが弱くなったり、呼吸筋が動かなくなると、換気量が減り、
二酸化炭素が体にたまりやすくなります。
このタイプのPaCO₂上昇は、意識の低下と合わせて進むことが多いため、より迅速な対応が必要です。
PaCO₂が高い状態は、酸塩基の面から見ると体液が酸性へ傾く「呼吸性アシドーシス」を引き起こします。
酸性が強くなると心臓の働きも弱まりやすく、血圧の低下や不整脈につながる可能性があります。
さらに重要なのが、脳の血流への影響です。
二酸化炭素には脳の血管を広げる作用があるため、高値になると脳血流が増え、頭蓋内圧が上がります。
頭痛、意識障害につながるだけでなく、脳に病変を持つ患者では状態悪化の原因となるため、
特に注意が必要です。
PaCO₂高値の背景として以下のことが考えられます。
これらのことを整理することが、病態を正しく判断するうえで重要になります。
- 換気が減っている場合
呼吸の回数や深さが不十分で、二酸化炭素が十分に排出されない状態
慢性閉塞性肺疾患(COPD)や呼吸抑制が背景になることがある - 気道に問題がある場合
気道の狭窄や閉塞により、酸素と二酸化炭素の交換が阻害される
喘息発作、異物、重度の肺気腫などが該当する - 筋力や神経の問題
呼吸筋が十分に働かず換気が低下する状態
筋ジストロフィー、重症筋無力症、脊髄損傷などが原因となる - 薬剤による抑制
中枢神経系の抑制により呼吸中枢の指令が低下する状態
麻薬や鎮静薬の過量投与が典型例
PaCO₂の上昇は単なる呼吸不全のサインではなく、全身の状態が崩れ始めていることを示す指標でもあります。
- PaCO₂高値は換気不足の明確な指標である
- 気道障害と中枢・筋力低下の二つの方向性から原因を考える必要がある
- 高値は脳血流増加と頭蓋内圧上昇を招くため、神経学的リスクが大きい
PaCO₂が低値のリスク

PaCO₂が35mmHg未満になると、体は必要以上に呼吸して二酸化炭素を排出している状態を示します。
この状態は呼吸性アルカローシスと呼ばれ、血液のpHが高くなるのが特徴です。
原因は多岐にわたり、体温上昇や痛み、興奮状態などの生理的要因のほか、感染症による呼吸亢進、
また代謝性アシドーシスの代償として起こる場合もあります。
代謝性アシドーシスでは、血液が酸性に傾くため、体は呼吸を増やして二酸化炭素を排出し、
pHを正常に戻そうとします。
PaCO₂の低下は脳血流にも直接影響します。
二酸化炭素は脳血管を拡張させる作用があるため、PaCO₂が下がると血管は収縮し、脳への血流が減少します。
これにより酸素供給が低下し、めまい、しびれ、視界の変化、集中力低下などの症状が現れることがあります。さらに低下が進むと、意識障害や痙攣を引き起こす危険性もあります。
特に換気過剰の状態が続く場合は、脳への酸素供給不足による長期的な影響にも注意が必要です。
PaCO₂低値の背景として以下のことが考えられます。
これらのことを整理することが、病態を正しく判断するうえで重要になります。
- 生理的要因
体温上昇、痛み、ストレスや興奮状態によって呼吸が亢進し、二酸化炭素が過剰に排出される
運動後や一時的な過呼吸でも同様の低下が見られる - 感染症
発熱や肺炎などによる換気増加でPaCO₂が低下する - 代謝性アシドーシスの代償
血液が酸性に傾くと、呼吸を増やして二酸化炭素を排出しpHを正常に戻そうとする結果、
PaCO₂が低下する - 薬剤の影響
サリチル酸など一部薬剤により呼吸中枢が刺激され、過換気状態となる場合がある
PaCO₂の低下は単なる過換気のサインではなく、全身の代謝や酸塩基のバランスが変化していることを示す指標でもあります。
- PaCO₂低値は呼吸過多や代謝性アシドーシス代償などが原因
- 脳血管が収縮して血流が減り、神経症状を引き起こす
- 症状の重症度に応じて、呼吸管理や酸塩基の調整が重要である
まとめ
PaCO₂は動脈血中の二酸化炭素分圧を示す重要な指標であり、換気の状態と酸塩基平衡を同時に評価できます。正常値は成人で約40mmHgですが、新生児や小児では年齢ごとにやや低めです。
PaCO₂が高値の場合は、換気不足や気道・筋・神経の障害、薬剤による抑制などが背景となり、
脳血流増加や頭蓋内圧上昇による症状が現れます。
一方、低値の場合は、過換気や代謝性アシドーシスの代償、感染や興奮状態などが原因となり、
脳血流減少によるめまいや意識障害が起こることがあります。
臨床現場では、PaCO₂の変化を単なる呼吸異常として捉えるのではなく、
全身状態や代謝・神経の影響まで含めて評価することが重要です。
適切な範囲に維持することは、呼吸管理だけでなく脳機能の安定にも直結します。
一緒に頑張りましょう!


