ペースメーカーやICDといった植え込み型デバイスが挿入されている時に
設定変更をお願いしますと言われたことはありませんか?
この設定変更は患者さんの命を守るために非常に重要なのですが
なぜ設定変更が必要なのか説明できますか?
設定変更をしていない状態でMRI撮影を行うと
かなり危険なことになるので本当に注意が必要です。
また、適切に設定変更をしないとこれまた危険なので注意が必要です。
今回は多くの危険が潜んでいる、ペースメーカーのMRI設定について紹介します。
設定変更が必要な理由
まず、植え込み型デバイスの設定変更が必要な場面は
MRI撮影時や内視鏡、手術中に電気メスを使用した際です。
これらの場面で設定変更する理由はノイズが大量に入り、
デバイスが本来とは異なる動きをする可能性があるからです。
設定変更をしないままですと、ICDやCRT-Dの場合、
ノイズの影響でVTやVFと判断され、除細動が生じる場合があります。
そのため、必ず除細動機能をOFFにする設定が必要なのですが、
その場合、今度はVTやVFが起きた際に除細動機能が作動しないので、
体外から除細動をかける必要があります。
この点はぜひ覚えておいてください。
今回の話の本題でもあるMRI撮影は、ノイズが混入するという問題があるのも事実ですが、
そもそもMRIは強力な磁場が生じるため、金属の持ち込みが禁止されています。
体内に植え込まれているデバイスも当然その対象であるため、
機器の故障やリード線の位置のずれが生じる危険があります。
しかし、最近ではMRIに対応したデバイスも多くなっており、
撮影前にモード変更を行うことで安全に撮影することが可能です。
電気メス使用時はどのような機種であっても設定変更する必要がありますが、
MRI撮影の場合は、対応デバイスの場合は設定変更、
対応していないデバイスの場合はそもそも撮影が禁止されています。
MRI撮影の条件
MRI対応のデバイスについては各メーカーごとに異なるため、その時々で確認が必要となります。
また、リードも同様で、デバイスは電池交換で新しくなるけど
リードは古いからMRI撮影できませんなんてこともあります。
一番手っ取り早い確認方法はMRI撮影が可能かどうかが一目でわかるMRIカードが
手帳に挟まれていることを確認するのがおすすめです。
ただ、私の経験上、2人に1人はMRIカードを持ち歩いていないです。
その場合は下記リンクで検索するか
メーカーに問い合わせるのが一番早いです。
ちなみにデバイスとリードが対応していたとしても
体内に使用していないリードやデバイスが残っている場合も撮影不可ですので注意してください。
その場合はMRIカードは発行されていないはずです。
その他にも
ペーシング閾値 2.0V/0.4ms以内
リードインピーダンス 200~1500Ω以内
植え込み部位 胸部
リード植え込みから6週間以上経過
出力5VでSwithingなし
と条件がありますがリード植え込みから6週間以上経過しているか以外は
ほとんど気にしなくて大丈夫です。
というのも植え込み部位はほとんどの場合が胸部ですし、
閾値、インピーダンスは共に正常値であるため、
ここを逸脱しているとMRI撮影以前の問題です。
また、出力5VでSwithingなしに関しては、最初の植え込み時に
10Vで確認しているため、基本的に出現することはありません。
ただ、設定変更時に確認する必要はあります。
ちなみに補足ですが、デバイスとリードのメーカーが違う場合は使用できないとされていますが
MRI対応同士ならいいんじゃね?と思いませんか?
これは、MRI対応できるかの確認を自社製品の組み合わせでしか評価していないからだそうです。
メーカー曰く、多分別のメーカー同士でも対応してれば行けると思うとは言っていましたが
臨床試験もされていないですし、撮影しても行けるのではと思うのはやめましょう。
植え込み型デバイスの設定変更の方法
ここからは植え込み型デバイスの設定変更の方法について紹介します。
どのメーカーであったとしても必ずMRI保護モード、電気メス保護モードといった
設定を行う画面があるのでそこから行ってください。
基本的にはプログラマーのパラメータから設定できます。
この設定変更はペーシングをすべて入れるVOOかDOOに設定変更するか
全くペーシングを入れないOOO(OFF)に設定変更をする必要があります。
この2つ選択肢の判断基準はペーシング率の高さによって決まります。
私の体感ですが、ペーシング率が30%以上の場合はペーシングをすべて入れる設定を行います。
ただ、OFFにした場合、ペーシングが全く入らなくなるため、
ペーシング率が0%で完全に自己脈がある患者さんを除いて
全てペーシングを入れるという考え方もあります。
植え込み型デバイスを挿入している本来の目的は徐脈の改善ですので、
デバイス挿入の適応になっている以上、万が一のことを考え、全てペーシングを入れるのも
間違った選択肢ではないです。
ただ、一点問題なのは、患者さんが心房細動(AF)を引き起こしている場合、
自己QRS波後のT波の途中でペーシングを起こし、VFになる危険性があります。
通称RonTと言われる症状で、本来であればAVディレイやモードスイッチなど、
RonTを防ぐ機能が備わっているのですが、
全てペーシングを入れる設定にすると、固定レートでひたすらペーシングするだけですので
危険性が高まります。
そのため、可能であればペーシング入れない設定にするというのが私の考えです。
自己脈も優先できるので、患者さんにとっては違和感もなく非常にいい状態です。
正直この辺は好みの部分もありますが、一番は患者さんが安全かつ違和感なく
治療を終えることができればいいので
考え方は人それぞれです。
なお、VOOやDOOに設定変更する場合、
出力は5V、ペーシングレートは設定レートより高め(+20)にするのが一般的です。
患者さんに違和感がある場合はその都度、設定変更を行う必要があります。
この辺に関しては医師とも相談して決めましょう。
ちなみに念押しですが、除細動機能は必ずOFFにする必要があります。
まとめ
今回は植え込み型デバイスのMRI設定変更について紹介しました。
電気メス使用時でも設定変更は同様の考え方でいいのですが、
RonTが最も怖いので、できればペーシングを出さない状態で設定したいです。
ただ、設定する側の本音としてはペーシング率が100%の患者さんは設定しやすいです。
(もうペーシングをすべて入れる設定にするしか選択肢がないから)
患者さんが安全かつ違和感なく検査や治療を行うためにも
重要な設定変更であり、
そもそもMRI対応しているかどうかの確認も我々臨床工学技士の大事な役割です。
一緒に頑張りましょう!