バルーンで補助循環!IABPについて

IABPについて 補助循環

皆さんは補助循環と聞いて最初に思いつくのは何ですか?
補助循環で知られている機器の中では最も補助率が低いとされているのがIABPです。

しかし、大きなメリットとして挿入するまでが簡易だという点です。
そのため、ICUでもIABPが駆動している姿がよく見かけられます。

しかし、IABPは設定が複雑だと思っている方も多く、どうやって操作するんだ?
と悩んでいる方も多いと思います。

今回はバルーンで補助循環を行ってくれるIABPについて紹介していきます。

  • IABPの回路構成、駆動ガスがわかる
  • IABPのバルーンの留置位置がわかる
  • IABPの導入基準、適応と禁忌がわかる
  • IABPの効果がわかる

IABPについて

IABP(Intra Aortic Balloon Pumping)こと大動脈バルーンパンピングは簡単に説明すると
心臓の圧補助を行う機械です。

この補助率は心拍出量の10~20%と言われており、他の補助循環であるECMO、Impellaに比べると
比較的低い補助率となっています。
そのため、補助循環を入れるレベルになった際に最初に選ばれることが多い機械でもあります。

挿入部位は大腿動脈でそこからバルーンを体内に留置させ、機械を駆動することで動きます。
最大の特徴は経皮的かつ簡易的に挿入できるため、ショック状態に陥った場合でも
迅速に対応することができます。

なお、バルーンの大きさは選択制で、30~40ccの範囲となっています。
使い分けについては身長によって決まりますが、詳細な数値についてはメーカーによって異なるため、
今回は割愛します。

自施設で使用しているIABPのメーカーを確認し、
バルーンの大きさがどの身長の患者に適応になるのかをご確認ください。

ちなみにバルーンの適応身長はIABP使用時に開封する箱に必ず記載されています。

IABPの回路構成について大きく二分割にすると、機械側と患者側に分けることができます。
基本的に臨床工学技士は機械側の操作を行い、IABPが正常に駆動するように、
バルーンの拡張、収縮のタイミングを変更させています。

では、どのようにしてバルーンの拡張、収縮のタイミングを決めているのかというと、
患者さんの心拍動に同期させています。

これはつまり、
心拡張期に同期させバルーンを拡張
心収縮期に同期させバルーンを収縮
させているということです。

この動きによってIABPでは心機能を補助することが可能となります。

なお、このバルーンの拡張、収縮にはガスが用いられていますが、使用されているのはヘリウムガスです。
ヘリウムガスは希ガスであるため、万が一バルーンが破裂し、血管内に流出したとしても血液中の物質と結合しないため、生体に影響が少ないと言われています。
また、軽い気体であるため、応答性に優れているというメリットがあります。

つまり、ヘリウムガスを使用するのは、安全かつ応答性が優れているからです。

ちなみにヘリウムガスは基本的にボンベから供給されるため、残量に注意する必要があるのですが、
IABPはヘリウムガスを出し入れしているだけなので、
長時間使用していてもボンベ残量が不足するということはあまりありません。

ボンベ残量の減少が明らかに速い場合は異常が起きている可能性が高いため、注意しましょう。

IABPはバルーンを拡張、収縮させる機械でもあるため、IABPで最も重要なのはバルーンの位置です。
この位置がずれているとうまく補助することができず、場合によっては悪化させることもあります。

最悪、タイミングに関しては機械側で何とかできるのですが、バルーンの位置に関しては透視化で行う必要があるため、場合によってはカテ室まで移動することもあります。

ちなみに、私の経験上ではカテ室で挿入した後のICUで確認すると位置がずれていることが多いです。
そのため、基本的にICU帰室時にバルーンの位置を再度確認することが多いです。

そんなバルーンの位置ですが、バルーンの先端は大動脈弓部の直下あたりに留置すると言われています。
これを具体的に説明すると
①左鎖骨下動脈の2cm下
②腎動脈の上

と言われています。

挿入方法としては大腿動脈からバルーンを挿入し、適切な位置までデリバリーしていくというのが一般的です。

  • IABPはバルーンを収縮、拡張させて心機能を圧補助する
  • 駆動ガスはヘリウムガス
  • バルーンの留置位置は左鎖骨下動脈の2cm下
  • 大腿動脈から挿入する

IABPの適応疾患と禁忌

IABPはフォレスター分類のⅣ群に該当するような疾患が適応となります。
収縮期圧が80mmHg以下の場合も適応となり、
血圧低値で緊急でスワンガンツカテーテルを行い、フォレスター分類がⅣ群の場合は
そのままIABP挿入なんてことも珍しくないです。


臨床的指標としては
尿量<0.5ml/hr/kg
抹消循環不全(四肢冷感、チアノーゼ)
といった血流が不足している、駆出機能が低下している可能性が示唆される状態であれば
IABP適応となります。

具体的にIABPの適応疾患としては代表的なのは
難治性心不全や心原性ショックです。

その他にも急性心筋梗塞や心室中隔欠損、僧帽弁閉鎖不全、
さらに経皮的かつ簡易的に挿入できるため、ハイリスクな一般手術やPCIの際にも適応となります。

ショック状態からバックアップまで幅広く活躍できるのもIABPの効果と簡易的かつ迅速に挿入できるからです。

では誰でも使えるのかと言われるとそうでもなく、禁忌ももちろん存在します。
禁忌として
・高度大動脈弁閉鎖不全
・腹部大動脈瘤または大動脈瘤
・大動脈から腸骨動脈にかけての硬度石灰化、末梢血管疾患

というものがあります。

高度大動脈弁閉鎖不全の場合はIABPの効果が軽減してしまう危険性。
腹部大動脈瘤、大動脈瘤の場合は挿入時、駆動後に破裂のリスク。
硬度石灰化や末梢血管疾患はそもそもIABPが挿入できない、血流量が増えても血液が流れない可能性があります。
この点に注意しましょう。

  • フォレスター分類のⅣ群が適応
  • 難治性心不全や心原性ショックなどが適応
  • 高度大動脈弁閉鎖不全などは禁忌

IABPの効果

IABPはバルーンを拡張、収縮させて心臓の機能を補助します。
そのため、バルーンの拡張時、収縮時にはそれぞれ効果があり、ここを理解できるとIABPの効果がわかります。

IABPの効果(拡張時)

まずはIABPのバルーンが拡張している時です。
この時をダイアストリックオーグメンテーションと呼びます。

ダイアストリックオーグメンテーションについて簡単に説明すると
①拡張期にバルーンを拡張
②拡張期圧が上昇
③冠動脈血流量等に血流が増加

が起きます。

まずは①についてです。
バルーンが拡張している時はどういう状態なのかというと、心臓は拡張しているタイミングです。
つまり、心臓は心室内に血液を溜めている状態だということです。

この状態でバルーンを拡張していると、大動脈内に本来あるはずの血液がバルーンの拡張により
居場所を失い、他の場所へ移動しなければいけない状態になります。

これはバルーンの拡張により、疑似的に血流が増加したということを意味します。
この時、通常よりも血液が多い状態となるため、拡張期圧が上昇します
これが②です。

そして、②の効果により、平均動脈圧が上昇します。
IABPを留置する際は元々低血圧であることが多く、この効果は非常に大きいです。

この拡張期圧の上昇で何が起きるのかというと、血流が他の場所にも流れるようになります。
しかし、大動脈以降はバルーンで塞がれているため、
この時に冠動脈や大動脈弓部の血管に血液が流れていき、冠動脈血流量や脳・腎血流量が増加します
これが③です。

つまりIABP拡張時の効果として
①平均動脈圧の上昇
②冠動脈血流量の増加

があるということです。

特に重要なのは冠動脈血流量の増加というわけですが、
心筋の酸素摂取率は70~80%と非常に高く、心筋がどれだけ酸素が必要な血管なのかがわかります。

この血流量が低下することで酸素供給量が低下するため、当然心臓に酸素が届かなくなり、
心臓の動きも悪くなってしまいます。

そんな時に冠動脈血流量が増加するのは非常によく、実は左冠動脈は心拡張時に血流が大きいため、
拡張期に冠動脈血流量が増加するというということです。

IABPの効果(収縮時)

まずはIABPのバルーンが収縮している時です。
この時をシストリックアンローディングと呼びます。

シストリックアンローディングについて簡単に説明すると
①収縮期にバルーンを収縮
②左室後負荷の軽減
③心筋酸素消費量の軽減

が起きます。

まずは①についてです。
バルーンが収縮している時はどういう状態なのかというと、心臓は収縮しているタイミングです。
つまり、心臓は心室内の血液を全身へ送る状態だということです。

この状態でバルーンを収縮していると、先ほどまでバルーンが拡張していた分だけ血液が増加していると思っていると収縮して一気に血液が減少したと認識されます。

これはバルーンの収縮により、疑似的に血流が減少したということを意味します。
この時、通常よりも血液が少ない状態となるため、拡張末期圧が低下します

この時、圧が低下しているため、通常よりも少ない力で血液を送り出すことができます。
これは心臓が収縮を開始した直後に生じる左室後負荷が低下したということです
これが②です。

そして、②の効果により、心仕事量が低下します。
これは通常時に比べて心臓が全身に血液に送るための収縮力が低下するということです。

この心仕事量の減少で何が起きるのかというと、その分心臓が酸素を消費しなくてもいいということです。
これは心筋酸素消費量の低下を意味します。
これが③です。

つまりIABP収縮時の効果として
①心仕事量の軽減
②心筋酸素消費量の低下

があるということです。

  • バルーンは心臓の拡張期に拡張し収縮期に収縮する
  • バルーン拡張時に冠血流量増加の効果がある
  • バルーン収縮時に心仕事量軽減の効果がある

まとめ

今回はIABPについて紹介してきました。
IABPは心臓の圧補助を行う補助循環の機械として使用されています。

特にIABPの効果というのは非常に重要で
拡張期に冠動脈血流量を増加させ、収縮期に左室後負荷を軽減し、心筋酸素消費量を低下させることで
心筋での酸素の需要を低下させ、供給を増加させています。

これにより心臓の機能回復を図ります。

なお、臨床的効果としては
収縮期圧20%低下
大動脈の拡張期圧30%上昇
平均動脈圧の上昇
心拍数の減少(20%低下)
平均肺動脈楔入圧20%低下
心拍出量20%上昇

といった効果が挙げられます。

今回はIABPの概要と適応疾患、効果というものについて紹介してきましたが
IABPは適切なタイミングでバルーンを拡張、収縮させることが最も重要です。
今回は記事が長くなったため、次回投稿させていただきます。

一緒に頑張りましょう!

  • IABPは圧補助を行う機械
  • 心臓に同期させ、拡張期にバルーンを拡張し、収縮期にバルーンを収縮させる
  • IABPは冠血流量を増加させ、心筋の酸素消費量を低下させる効果がある
  • フォレスター分類Ⅳ群が適応で、挿入時は大腿動脈からアプローチ