IABPで絶対に知っておきたい 駆動タイミングについて

IABPの駆動タイミング 補助循環

皆さんはIABPの管理を適切に行えているでしょうか?

私も初めの頃はどうやってタイミング合わせるねんと思いながら苦労してきたのを覚えています。
また、IABPはアラームが鳴らなくても不適切なタイミングで動作していることが良くあります。

その状態で放置しているとむしろ患者さんにとって逆効果なので絶対に回避したいのですが、
ICUという忙しい環境の中でIABPの駆動タイミングまで操作してくれる
医師や看護師さんはなかなかいません。

もちろん、そのためにICUに在住しているのが私達臨床工学技士です。

タイミングを変更するのが不安だという人やそもそもタイミングがわからないという人も
今回の記事が参考になると思いますのでぜひ最後まで見て行ってください。

  • IABPのトリガの使い分けがわかる
  • IABPの適切な駆動タイミングがわかる
  • IABPの不適切なタイミングがわかる

IABPの駆動タイミングについての基礎情報

まず、そもそもIABPがわからないよという方は前回のこちらの記事をご参考にしてください。
ここからはここの記事の内容は理解したうえで説明していきます。

では、前回の記事でも説明した通り、IABPは心臓の拡張期にバルーンを拡張させ、
収縮期にバルーンを収縮させています。

つまり、心臓の動きに同期してバルーンを拡張、収縮させているわけなんですが、
いったいどうやって同期させているのかというと
心電図もしくは動脈圧です。

どちらに設定するのが良いのかということに関しては心電図が答えになります。
特に心房細動などの際はR波が早期に発生することもあり、
このままだとバルーンの拡張期と心臓の収縮期が重なる可能性があります。

しかし、心電図トリガでは早期のR波に関して反応し、タイミングが重ならないように作動します。
よって安全面を考慮すると心電図トリガが良いと言われています。

もちろん心電図トリガで何も問題が無ければいいのですが、
動脈圧の方がタイミングがあっていればその方がIABPは効果的です。
また、仮に心房細動などが発生している場合はそもそも心電図トリガではうまくタイミングが合わないです。
つまり、心電図でも動脈圧でもタイミングよく拡張、収縮できればいいです。

ただ、それでは悩む人も多いと思うので、迷った時は心電図トリガがおすすめです。
当施設でも心電図トリガを標準とし、うまく同期できない場合は動脈圧に変更させるというのが
基本的に流れです。

ただし、例外があって、心電図トリガの弱点はノイズの混入に弱く、体動が生じる場合には不向きです。
つまり、移動時は心電図トリガの使用が困難になるということです。

そのため、例えばカテ室でIABPを挿入した後、ICUに帰室するまでの間は動脈圧トリガに変更し、
落ち着いたタイミングで心電図トリガに変更します。

ちなみにどうしてもタイミングが合わないときはあります。
例えば脈圧がほとんどなく、心電図は持続性不整脈といった場合です。
正直この場合はタイミングが合わせようがないのですが、
バルーンの拡張と収縮のタイミングを固定化し、無理やり作動させるモードも存在します。

ただし、これは不適切なタイミングで作動することも当然あり得るので、できれば設定したくないので、
最終手段として覚えておいてもらえると幸いです。

  • IABPは心電図トリガが第一選択
  • 移動時は動脈圧トリガ
  • バルーンの収縮と拡張のタイミングを固定化するモードもある

IABPの駆動時の圧波形

ここからはIABPの駆動タイミングについて説明していきます。
まずはIABPを使用していない正常人の動脈圧波形とIABP使用時の動脈圧波形の違いを理解する必要があります。

この右側のIABP駆動時の動脈圧波形が適切な圧波形となりますのでまずはここを理解しましょう。
では正常人とIABP駆動時で何が違うのかというと、大きく分けて2か所あります。
①ディクロティックノッチで圧が上昇している
②動脈圧の立ち上がりの位置が普段よりも低下している


まず、①のディクロティックノッチで圧が上昇しているという点ですが、
そもそもディクロティックノッチというのは大動脈弁が閉鎖したタイミングのことです。
つまり、今から心臓が拡張するよというタイミングですので
バルーンが拡張するベストタイミングというわけです。

圧波形上ではちょこっと凸となるのがポイントです。

つぎに、②の動脈圧の立ち上がりの位置が普段よりも低下しているという点ですが、
正常人の動脈圧波形と比較すると分かりやすいのですが、
明らかに収縮し始めるタイミングである圧の立ち上がりの位置が低下しています。

これは、IABPによって心仕事量が低下したことにより、動脈圧が低下したことを表しています。

よって、IABPが適切に作動しているかどうかは、IABP機器本体の圧波形が、
この2つのポイントと一致しているかで判断できます。
どちらか片方でもおかしければ異常が生じています。

なお、ここから説明する同期タイミングに関しても、
この波形を維持するために心臓の動きとバルーンを同期させています。

  • IABPの圧波形が重要
  • ポイント①ディクロティックノッチで圧が上昇している
  • ポイント②動脈圧の立ち上がりの位置が普段よりも低下している

IABPの駆動タイミング

IABPの駆動タイミングは心電図にトリガさせる方法と動脈圧にトリガさせる方法の2種類が存在しています。

まず、IABPのトリガ方法として一般的なものである心電図トリガです。
心電図の情報はICUなどのベッドサイドモニタの情報を出力するか、
IABP本体の心電図ケーブルを使用して入力します。

基本的にはベッドサイドモニタの情報を出力しますが、
IABP本体の心電図ケーブルを接続している場合、Ⅰ~Ⅲ誘導までを任意の誘導にIABP側で変更できます。

心電図トリガの場合は
収縮タイミングはP波の終わりからQRS波の直前
拡張タイミングはT波の頂点からやや後ろ

となっています。

つぎに、心電図がうまく検出できない場合や、搬送などで体動が生じやすい場面で設定する動脈圧トリガです。
この圧波形はバルーンの先端にある光センサを用いる方法と、挿入後に圧ラインをIABPのラインに取り付け、
先端圧を表示させる方法があります。

基本的には光センサで検出を行い、
万が一光センサが破損した場合のバックアップとして先端圧を表示させることが多いです。

動脈圧トリガの場合は
収縮タイミングはディロティックノッチ
拡張タイミングは拡張末期動脈圧が最小値を示すタイミング

となっています。

これらのタイミングでIABPのバルーン圧が連動していることも確認し、
適切なタイミングで動作しているかを確認しましょう。

このタイミングを設定する際はアシスト比を一時的に1:2にするのが最も効率がいいです。
なぜなら、1:2にすることで通常時とIABP駆動時の圧波形を並べることができるからです。
特に、ディクロティックノッチのタイミングや拡張末期動脈圧の最小値などは比較するとすごくわかりやすいです。

ちなみにIABP駆動中に1:2にすると危険なのではと思う方もいますが、
一時的に1:2にすることに関して患者さんが急激に血圧低下するということはありません。
その点はご安心ください。
私の経験上でも今の所、一時的に1:2にすることで急変したことはありません。

  • 心電図トリガ 収縮タイミングP波の終わりからQRS波の直前 拡張タイミングT波の頂点からやや後ろ
  • 動脈圧トリガ 収縮タイミングディクロティックノッチ 拡張タイミング拡張末期動脈圧の最小値
  • 設定する際はアシスト比を1:2にする

IABP収縮・拡張タイミングに異常が生じている場合

ここまでIABPの適切なタイミングについて紹介してきました。
基本的にはこのタイミングでバルーンを収縮・拡張させるのが最も効果的です。

では、ここからは万が一タイミングにずれが生じた場合、どのような影響があるのかを見て行きましょう

拡張タイミングが早い場合

拡張タイミングが早い場合です。
これはIABPの拡張タイミングがディクロティックノッチよりも早いタイミングということです。

つまり、心臓が収縮している途中でバルーンが拡張するという状態です。
心臓が収縮しているタイミングというのは心臓から血液を拍出するというタイミングです。
このタイミングで拡張されると心臓から血液を拍出できなくなってしまいます。

これは左室後負荷が生じるということを意味します。

この場合、IABPで拍出量を増加させるどころか、低下させているため、
IABPの使用が逆効果になっているため、絶対に避けるべきタイミングです。

拡張タイミングが遅い場合

拡張タイミングが遅い場合です。
これはIABPの拡張タイミングがディクロティックノッチよりも遅いタイミングということです。

つまり、心臓が拡張してからバルーンが拡張するという状態です。
このタイミングで拡張されたとしてもすでに心臓の拡張は始まっているため、
IABPとしてほとんど効果がありません。

当然、拡張期の効果である冠動脈血流量も増加しないです。

収縮タイミングが早い場合

収縮タイミングが早い場合です。
これはIABPの収縮タイミングが拡張末期動脈圧が低下する前だということです。

つまり、心臓が拡張している状態でバルーンが収縮する状態です。
このタイミングで収縮されるとせっかく拡張期圧を上昇させ、血流量の増加を図っていたのが台無しになります。
もちろんIABPとしてほとんど効果がありません。

当然、拡張期の効果である冠動脈血流量も増加しないです。

収縮タイミングが遅い場合

収縮タイミングが遅い場合です。
これはIABPの収縮タイミングが拡張末期動脈圧が低下する後だということですと。

つまり、心臓が収縮してからもバルーンが拡張しているという状態です。
このタイミングで拡張していると心臓内で増加した血液を拍出することができないため、
左室後負荷が生じます。

この場合、IABPで拍出量を増加させるどころか、低下させているため、
IABPの使用が逆効果になっているため、絶対に避けるべきタイミングです。

  • IABPの拡張タイミングが早い、収縮タイミングが遅い場合は左室後負荷が生じる
  • IABPの拡張タイミングが遅い、収縮タイミングが早い場合はIABPの効果が低下する(特に拡張期)

まとめ

今回はIABPの適切なタイミングについて紹介しました。

IABPを管理する上で必要な知識は様々ありますが、今回の内容は患者さんに直接かかわりのある重要な項目です。
もちろん知識が多い分ことは問題ないですが、
業務上、IABPに関わるのであれば、この駆動タイミングについては必ず理解しておく必要があります。

ここがわからないで管理してしまうと、IABPは患者さんにとって負担にしかならないということも考えられます。
補助循環として適切に使用できればいいのですが、
できないと不利益になるので絶対に理解しましょう。

また、タイミングが異なることで生じるデメリットもわかればより、
適切なタイミングに合わせやすいと思います。

初めのうちはタイミングを合わせるのもすごく不安だと思いますが、
怖がらずにやってみるのが患者さんにとってプラスになるかもしれないです。
(必ず先輩と相談しましょう)

一緒に頑張りましょう!

  • IABPは心電図トリガと動脈圧トリガの2種類がある
  • 心電図トリガ 収縮タイミングP波の終わりからQRS波の直前 拡張タイミングT波の頂点からやや後ろ
  • 動脈圧トリガ 収縮タイミングディクロティックノッチ 拡張タイミング拡張末期動脈圧の最小値
  • 設定する際はアシスト比を1:2にする
  • タイミングのずれは左室後負荷やIABPの効果減少につながる