今回はペースメーカーでの基本的な設定の一つであるVVIについてです。
私達臨床工学技士は日々ペースメーカーと関わっているのですが、
その中でもよく設定されているのがVVIやDDDです。
特に、VVIはペースメーカー初心者の方でも比較的わかりやすい設定ではあるので、
今回はVVIについて紹介していきます。
ペースメーカーについて勉強したいけど、いったいどこから勉強すればいいのか良いのか分からない方は
このVVIから勉強するのがいいでしょう。
閾値テストの難易度も他に比べると容易ですし、
このモードが理解できるとテンポラリーの設定も理解できるようになります。
ぜひ最後まで見て行ってください。
- VVIのモードについてわかる
- VVIに必要な設定がわかる
- VVIがどのような動きをするのかがわかる
- VVIの適応疾患、メリット、デメリットがわかる
VVIについて

まず、VVIがどういったモードなのかについて説明していきます。
VVIをNBGコードからどういうモードなのかということを読み取ると、
一文字目のペーシング部位がVのため、心室をペーシングするモード
二文字目のセンシング部位もVのため、心室をセンシングするモード
三文字目の動作様式がIのため、ペーシングは抑制する動作を行います。
つまり、心室(QRS波)だけを見て、心室のみにペーシングをするかしないかを判断するモードです。
これは何を意味するかというと、
心房(P波)には一切関与しないということです。
極端な話をすると、P波が全く出現しなくてもそれが要因となってペーシングすることはないということです。
- VVIは心室(QRS波)だけを見て、心室のみにペーシングをするかしないかを判断するモード
- VVIは心房の動きには関与しない
VVIの設定項目

VVIの設定項目は主に3つあり、
①ペーシングレート
②出力設定
③感度設定
となっています。
①ペーシングレート
ペーシングレートはペースメーカーがペーシングを入れる設定となっています。
例えばVVIの場合、ペーシングレートを60と設定した場合は患者さんの心拍が60以下になった瞬間に
刺激を与えることで強制的に心室を収縮させ、患者さんの心拍数を60に保ちます。
逆に患者さんの心拍数が60以上であれば特に何も作動しません。
見かけ上はペースメーカーは何も機能していませんが、
自己心拍がペーシングレートを上回っていれば正常な動作です。
一般的な設定は成人の標準的な心拍数である50~60がペーシングレートに設定されていることが多いです。
他の設定項目もペースメーカーが作動するためには必要な設定ですが、
このペーシングレートは機械の電源みたいなものなので、
状況次第ではどれだけ他の設定を変更してもここを変えなければ意味がないまでもあります。
ちなみにペーシングレートは患者さんの状態次第で40に設定してあることや
70以上に設定されていることもあります。
ペーシングレートが普段よりも高めの場合は期外収縮(PVC)の出現を防ぐため、
ペーシングレートが普段よりも低めの場合はバックアップ(普段は自己で何かあった時用)が多いです。
まずは、ペースメーカーが目指す患者さんの心拍数がペーシングレートだということを覚えておきましょう。
②出力設定
出力設定はペースメーカーが刺激する際の出力です。
この値は閾値の2倍以上にするのが一般的です。
この設定が低すぎる場合は患者さんの自己心拍がペーシングレートを
下回ってもペーシングが入らない場合があります。
逆に設定が高すぎると電池消費が激しくなってしまうため、長くペースメーカーを使用するためにも
適切な出力設定を行うのは絶対に必要です。
一般的には植え込み時の時点で閾値が1V以下であることが多いため、
出力設定は最低でも2V
植え込み後の閾値上昇を考慮し、2.5Vに設定することが多いです。
③感度設定
感度設定はペースメーカーがQRS波を検知するための設定です。
この値は波高(QRS波の高さ)の1/2~1/3以下にするのが一般的です。
この設定が鋭すぎる場合はオーバーセンシング、鈍すぎる場合はアンダーセンシングの可能性があります。
一般的には植え込み時の時点で波高が4mV以上であることが多いため、
感度設定はペースメーカーの標準設定である2mVに設定することが多いです。
私の経験上、植え込み時にQRS波の波高値が5mV以下になったことはありませんが、
もし仮になった場合はリードの位置をその時点で変更することで対応します。
基本的にQRS波はそもそも心電図上でも波高値が高いため、
VVIの場合、感度設定で悩むことはほとんどありません。
P波の場合は状況次第で悩むこともありますが・・・
今回はVVIの設定なのでいったんスルーしましょう。
- ペースメーカーが目指す患者さんの心拍数がペーシングレート
- 出力設定は閾値の2倍以上
- 感度設定は波高の1/2~1/3以下
VVIの動作について
ここからはVVIの動作についてです。
VVIの動作を決める項目はペーシングレートのみですので、
VVIの動作は
自己心拍>ペーシングレート
自己心拍<ペーシングレート
の2種類しかありません。
ちなみに自己心拍とペーシングレートが全く同じになった場合は自己心拍とペーシングが同時に生じます。
これはフュージョンと呼ばれる現象で、不適切な動作であるため、出現頻度が多い場合、
ペーシングレートの設定を変更する必要があります。
ただし、これは正常動作ではないため、詳細な説明は今回は割愛させていただきます。
VVIの動作 自己心拍>ペーシングレート

VVIで設定設定している患者さんでペーシングレートが60で設定されている場合です。
仮に患者さんの自己心拍が常に70だとします。
この場合、常にペーシングレートの60よりも患者さんの自己心拍は高いため、
ペースメーカーとしては刺激を抑制します。
この時、ペースメーカーは刺激をしないため、動作しないです。
プログラマー上ではVs(自己心拍)と表記されています。
VVIの動作 自己心拍<ペーシングレート

VVIで設定設定している患者さんでペーシングレートが60で設定されている場合です。
仮に患者さんの自己心拍が基本的に70、たまにP波出現後のQRS波が遅れ、自己心拍が60以下になるとします。
まず、自己心拍が70の場合
この場合、常にペーシングレートの60よりも患者さんの自己心拍は高いため、
ペースメーカーとしては刺激を抑制します。
これは先ほどと同様で、ペースメーカーは刺激をしないため、動作しないです。
プログラマー上ではVs(自己心拍)と表記されています。
一方で自己心拍が60以下となってしまう場合、
図で示すと3拍目と5拍目ですね。
この時、自己心拍がペーシングレートの60を下回るのでペースメーカーが動作し、心室刺激を行います。
プログラマー上ではVp(心室ペーシング)と表記されています。
この時、図では明らかにQRS波の波形が変化しているため、一目見たらわかると思いますが、
実際の患者さんの場合でもこの波計が自己心拍かペーシング波形なのかというのは一目でわかります。
VVIの場合
自己心拍>ペーシングレート・・・心室刺激抑制
自己心拍<ペーシングレート・・・心室刺激
VVIの適応疾患
VVIがどのような動作を行うのかが分かったと思うのですが、
では実際にどういう患者に使用されるのかについて紹介していきます。
そもそも、ペースメーカーの適応疾患は
洞不全症候群
房室ブロック
徐脈性心房細動
となっています。
先ほども説明した通り、VVIは心室のみに作用する設定です。
つまり、最も適応となる疾患は徐脈性心房細動です。
なぜなら徐脈性心房細動は心房細動により、房室同期がとれなくなることにより、
心室波の出現が遅れる=自己心拍が低下するという流れになります。
もちろんDDDなどの他のモードでも対応できますが、P波は高頻度で出現していることと、
P波とQRS波の同期は症状が出ている途中は不可能なので、
むしろ心室波を単独で見ているVVIの設定が一番適しています。
- VVIの適応疾患は徐脈性心房細動
VVIのメリットとデメリット
最後にVVIのメリットとデメリットについてです。
まず、VVIのメリットは以下の通りです。
①簡易的に使用できる
②リードレスペースメーカーも適応
つぎにデメリットについては以下の通りです。
①SSSは適応外、房室ブロックはイマイチ
②P波の感知が一切できない
VVIのメリット
①簡易的に使用できる
これはVVI、最大のメリットです。
VVIはリード線が心室のみでいいため、1本挿入するだけで使用可能です。
DDD等、心室の他に心房も刺激、感知したい場合はもう1本リードを挿入する必要があります。
この簡易的に使用できる点が最大の魅力で、テンポラリーがVVI設定なのもこの簡易的という点です。
患者さんの自己心拍はRR間隔で表されます。
これは最悪心室さえ刺激(収縮)できれば生命維持が可能になるということです。
テンポラリーの時は特に一時的なので、後日ペースメーカーに移行する際は
その症状に合わせて適切なモード設定が必要となります。
②リードレスペースメーカーも適応
その簡易的な部分を最大限に活用できたのがリードレスペースメーカーです。
近年ではリードの挿入すら不要なリードレスペースメーカーも普及しています。
ただし、モード設定はVVIが基本です。
条件を満たせばVDDの設定も可能ですが、リードレスペースメーカーは本体を心室内に留置する関係上、
刺激部位は心室のみとなります。
VVIのデメリット
①SSSは適応外、房室ブロックはイマイチ
VVIの適応疾患の範囲についてですが、一応全部対応できます。
ただ、適切な設定かと言われると違います。
SSS(洞不全症候群)の場合は、心室自体は正常であるため、心室を刺激するというよりも
心房を刺激することが必要となります。
もちろん状況次第で心室ペーシングも必要ですが、SSSで心房を感知しない設定は不適切です。
房室ブロックはQRS波が突如脱落、完全に房室伝導が解離しているという状態であるため、
心室ペーシングが必要となります。
そのため、VVIでも対応できるのですが、DDDなどの設定で心房と同期させる設定の方が
治療効果としては適切です。
②P波の感知が一切できない
ここがVVIの最大のデメリットです。
先ほどの適応疾患の範囲の話ともかぶるのですが、
本来人間の心臓は心房が収縮し、心室が収縮するという刺激伝導が成り立っています。
VVIは心房を一切無視するため、刺激伝導は成り立たないです。
例としては心房が収縮する前に心室が先に収縮する可能性もあるということです。
これは非生理的な設定と言われるもので、一時的であればいいですが、永続的に使用するのは
好ましくないというのが私の考えです。
ただし、完全に房室伝導が崩壊している徐脈性心房細動はVVIが適切です。
この場合は心房が絶え間なく動いているため無視しても問題ないです。
一方で、同じく房室伝導が崩壊している完全房室ブロックは心房も感知する必要があります。
VVIのメリット
①簡易的に使用できる
②リードレスペースメーカーも適応
VVIのデメリット
①SSSは適応外、房室ブロックはイマイチ
②P波の感知が一切できない
まとめ
今回はVVIについて紹介してきました。
私が臨床現場で初めてペースメーカーに触れた際もこのVVIからでした。
正直VVIが理解できればテンポラリーも余裕です。
ペースメーカーにはVVIの他にもDDDなど、複雑なモード、設定が多く存在しており、奥が深いです。
そんなペースメーカーの第一歩ともいえるVVIのことをまず理解し、
この後の勉強に生かしていきましょう!
今後もペースメーカについて記事を投稿していくので一緒に頑張りましょう!