房室同期を行う必須設定!AVdelayについて

AVdelayについて ペースメーカー

ペースメーカーでペーシングするタイミングとしてペーシングレートだけを見ている人はいないですか?
実はペースメーカーにはペーシングレート以外にペーシングのタイミングを調整することができる
設定項目があります。

それがAVdelayです。

AVdelayはNBGコードにおいて、3文字目にDが記載されているモードに使用されています。
これはつまり、DDDのモードで使用されているということです。

閾値や波高値を測定する際にも必要なAVdelayは
いったいどのようにしてペーシングのタイミングを調整しているのか?

今回はペースメーカーの基本設定でもあるAVdelayについて紹介していきます。

この記事でわかること
  • AVdelayについて
  • 適切なAVdelayの設定

AVdelayについて

まず、AVdelay(AVディレイ)とは房室伝導遅延時間のことです。
これはつまり、心房の興奮であるP波と心室の興奮の始まりであるQ波の時間(PQ時間)のことで
P波を検出してから心室ペーシングを行うまでの時間のことです。

このAVdelayの設定が必要になる設定はNBGコードの3文字目がDとなっている場合です。

そもそもPQ時間というのは心房の興奮が心室に伝わるまでの時間で、正常値が0.12秒から0.20秒となっています。

本来であれば心臓の電気の流れは洞結節から房室結節に伝わるのですが、この伝わるまでの時間を
ペースメーカー上で調整することが可能です。


もちろん完璧にコントロールすることはできませんが、基本的にPQ時間が延長するような疾患に対しては
有効な設定です。

  • PQ時間の基準値は0.12~0.2秒
  • AVdelayの設定はPQ時間を調整することと同じ

AVdelayの動き

AVdelayはP波を検出してから心室ペーシングを行うまでの時間です。
つまり、この値を調整することで心室ペーシングのタイミングを調整することが可能です。

例えばAVdelayを200ms(0.20秒)に設定した場合、AVdelayの動作としては主に2パターンあります。

AVdelayの動作パターン

P波出現後、200ms以内に自己QRS波が出現した場合
P波出現後、200ms以内に自己QRS波が出現しなかった場合

①P波出現後、200ms以内に自己QRS波が出現した場合

AVdelay内に自己QRS波が出現した場合、心室ペーシングは発生しないです。
これはペーシングが抑制されている状態です。

P波出現後、200ms以内に自己QRS波が出現しなかった場合

AVdelay内に自己QRS波が出現しなかった場合、心室ペーシングが発生します。
これは心房に同期してペーシングしています。

PQ時間が延長する疾患として房室ブロックが挙げられます。
つまり、適切なAVdelayを設定することで、房室ブロックの不整脈で悩まされている
患者さんに適切なPQ時間で心室収縮を行うことが可能になります。

AVdelayの適切な設定

ここまでAVdelayの動きについて紹介してきました。
ここからはさらにAVdelayについて深堀していきます。

まず、ペースメーカーで実際にAVdelayを設定する場合は2種類設定することができます。

AVdelayの設定
  • センス後AVdelay
  • ペース後AVdelay

まず、センス後AVdelayとは自己心房波が発生した後のAVdelayです。
この設定の基本的な値は150msとなっています。
開始タイミングはP波が感知できたタイミングです。

一方で、ペース後AVdelayとは心房ペーシングが発生した後のAVdelayです。
この設定の基本的な値は180msとなっています。
開始タイミングは心房ペーシングが入ったタイミングです。

ここで気になるのはセンス後AVdelayとペース後AVdelayの設定値が20~30ms差がある点です。
これは、基本的にペーシングが出現してからP波が出現するまでには時間差があります。
この時間差は20~30msあります。

  • P波が自己心拍なのかペーシング波形なのかでAvdelayの時間も変更できる
  • 時間差があるのは自己心拍とペーシング時でP波が出現するタイミングが異なるから

AVdelayの実際の設定

AVdelayはPQ時間を調整することができます。
基本設定としてはセンス後、ペース後含めて150~180ms程度に設定されていることが多いです。

ただし、実際のペースメーカの設定ではこの設定よりも短くしている場合や長くしている場合があります。

AVdelayを短くする場合
  • AVBの他にSSSを合併している場合
  • 自己心室波の出現が見込めない場合

AVdelayを短くする場合は自己心室波(QRS波)が出現しない場合です。
この場合、AVdelayの設定は適切なPQ時間と同じ程度である120msであることが多いです。

短くする理由として、自己心室波が出現しない場合、むやみに延長していたとしても特に意味がないからです。
出現しないのであれば適切なPQ時間にする方が適しているため、120ms程度に変更するのも一つの手段です。

AVdelayを長くする場合
  • 自己心室波を優先したい場合

AVdelayを長くする場合は自己心室波(QRS波)を出現させたい場合です。
この場合、AVdelayの設定は250ms程度まで延長している場合があります。
これは患者さんの状態によっても変わります。

例えばAVBの患者さんですと、数拍に一回QRS波が出現しないなんてことがあります。
そのタイミングでペーシングは必要なのですが、それ以外のタイミングは自己で心室が収縮します。

しかし、AVdelayの設定が150msの場合
P波出現後からQRS波が出現するタイミングが200msだとすると、心室ペーシングが出現します。

AVdelayを設定する上で最も重要なのは可能な限り心室ペーシングは行わないということです。
つまり、可能な限り自己心室波を出現させることが適切なAVdelayの設定だということです。
また、ペーシングが出現しないことでバッテリーの節約も可能です。

ペーシングよりも自己心拍を優先したい理由

心室ペーシングは非生理的なペーシングであり、通常よりも心室興奮の時間が長くなるためQRS幅も広くなる
自然に起こる本来の心臓の動きとペースメーカーによって生じる心臓の動きはタイミングが異なるため、
心臓の血液拍出がスムーズに行えない可能性がある

つまり非生理的ペーシングースメーカー症候群の原因となる

  • 自己で心室を収縮させることが難しい場合はAVdelayを短くしても問題ない
  • 少しでも自己で心室が収縮できるのであればAVdelayを長くし、自己で心室を収縮させる

まとめ

今回はAVdelayについて紹介してきました。
この設定は心房が興奮してから心室が興奮するという通常の流れをペースメーカーという機械で
再現するための重要な設定です。

患者さんの状態と設定次第では全て心室ペーシングにすることや、
自己心室波にすることも不可能ではありません。

ただし、ペーシングレートの設定とは異なり、設定を理解するためには房室伝導について理解する必要があります。
単純に心拍数だけで判断しているわけではないというのがAVdelayがわかりにくい点です。

この記事を見て再度AVdelayの設定を確認してみると、
自己心拍を出現させたいのか、ペーシングさせたいのかもわかってきます。

一緒に頑張りましょう!