人工呼吸器の重要設定項目 PEEPってなに?

PEEPについて 呼吸療法

人工呼吸器は急性期病院ではもちろん、慢性期病院でも活躍しており、
生命維持管理装置の中で最も身近な存在です。
そんな人工呼吸器の設定について医師と相談したり、
適切に作動しているのかも確認するのが我々臨床工学技士の業務の1つです。
人工呼吸器の設定については様々あってモードや名称も複雑で
よくわからないって方も多いと思います。

そんな呼吸器の設定項目にどの機種でも共通してある項目の一つがPEEPです。
名称も私の知る限り全機種同じ項目です。
全モード、全機種共通して存在しており、名称も共通の設定項目は
PEEPの他にFiO₂しかないです。

今回はそれほど重要なPEEPについて解説していきます!

PEEPとは?

まず、PEEPとは日本語で呼期終末陽圧のことで、肺を膨らませてくれます。

これだと頭に?が浮かんでいる人が多いと思うのでもう少し詳しく解説します。
そもそも人工呼吸器が必要な人がどんな人かというと、肺でガス交換がうまくできない
つまり、肺の機能が低下しているため体内に酸素を取り込めない状態です。

では、酸素を体内に取り込むためには何が必要かというと肺胞が膨らんでいること。
肺胞が膨らんでいる状態ですと、体内の二酸化炭素を排出し、酸素を取り込むことが
可能になるので体内に酸素を取り込むことができるということです。

ちなみに正常人の場合は呼吸の際に肺胞を膨らませたり、萎ませたり(虚脱ともいいます)
しているのですが、人工呼吸器を装着する患者の場合、肺胞が常に萎んだままの人が多いです。
そのため、PEEPを使って膨らませたろうというわけです。

結論、PEEPは呼気時に肺胞が虚脱する(萎む)のを防ぎ、
体内に酸素が行き渡るようにしようというわけです。

PEEPのメリット

先ほども説明しましたがPEEPは体内に酸素が行き渡るようにする設定です。

つまり、PEEPの最大のメリットは体内の酸素化向上です。
ちなみに人工呼吸器で酸素化向上させるためにはPEEP以外にFiO₂以外ありません。
実際の現場ではこの2つの設定項目を調整しながら患者さんの酸素の量を調整してます。

1つ目の酸素化向上についてはここまで説明してきた通り、PEEP最大のメリットです。


2つ目の肺損傷の予防についてですが、PEEPを設定しない場合でも、人工呼吸器で無理やり
虚脱した肺胞を膨張させることは可能です。
ただ、虚脱した肺胞が膨張し、虚脱し、また膨張してというのを繰り返すと
肺胞同士が擦れてしまい、肺損傷を起こす危険性があります。

これはVALIと呼ばれる人工呼吸器関連肺損傷とも呼ばれます。
VALIは人工呼吸器の不適切な設定でも起こってしまい、人工呼吸器が必要な患者に装着したら
むしろ悪化したという最悪のパターンです。
これを防ぐためには肺胞を虚脱させないということは重要で、
VALI予防の観点から見てもPEEPは必須になります。

3つ目の呼吸仕事量の減少は、肺を風船だとイメージしてもらえると分かりやすいです。
皆さんも一度は風船を膨らませたことがあると思いますが1から膨らませるのと、
ある程度膨らんだ状態から膨らませるのとではしんどさが違います。

1から膨らませる場合は本当に力一杯膨らませる必要があり、
肺活量が少ない人だと膨らませないこともあります。

しかし、ある程度膨らんだ状態ですと、そこまで力を入れなくても膨らませることができます。

気になる人はダイソーで風船を買ってきてやってみてください。

これは肺も同様のことが言えて、
1から風船を膨らませるというのは虚脱した肺のこと
ある程度膨らんだ風船を膨らませるというのはPEEPがかかった肺のことです。

つまり、肺を膨らませる仕事量がPEEPがかかっている肺の方が少ないので、
PEEPを設定すると呼吸仕事量が減少します。

人工呼吸器を使用する必要のある患者さんにとって、
肺を休ませることができる非常に有効な設定です。

PEEPのデメリット

ここまでの話を聞くと、どんどんPEEP上げていったらいいじゃん!と思うかもしれないですが
PEEPにもデメリットは存在しています。

順番にデメリットについても紹介していきます。

1つ目の肺の損傷というのはこれもまたVALIです。
さっきPEEPがないとVALIが起きるって言ってたじゃん!と思うかもしれないですが、
PEEPがない時は肺胞が擦れてしまっての肺損傷ですが、
PEEPを過剰にかけてしまうと今度は肺が膨らみ過ぎて損傷してしまいます。
先ほどの風船に例えると、膨らんだ風船にまだ空気を送り続けると破裂すると思いますが
それと同じ現象が肺に起きてしまうということです。

2つ目の心臓への負担増大というのを理解するためには心臓の位置がポイントになります。
皆さんご存知の通り、心臓は肺と肺に挟まれた状態になっています。
しかし、PEEPがかかると常に肺が膨らんでいる状態となるため、
胸腔内にある心臓が圧迫されます。
その影響もあり胸腔内圧は普段よりも上昇することとなり、
心臓に流入してくる血液の量は低下します。
ちなみに心臓から全身に血液を送る力は圧力差の兼ね合いで増大するのですが、
これは血圧の低下を意味します。
また、肺胞が拡張されていることで、肺毛細血管が潰され、肺血管抵抗も増大するのですが、
これにより左心室への血液流入が阻害されます。

つまり、PEEPのにより肺胞が膨らんだ状態になることで心臓で何が起きているのかというと
心臓に流れてくる血液の量が減少するということです。
これは心拍出量低下、血圧低下を意味するため、非常に危険です。

3つ目の脳圧の亢進は2つ目のデメリットで心臓に流入してくる血液の量が低下することが
理解できたと思いますが、それに伴い、脳の血流も心臓に戻りにくくなるということです。
つまり、脳に送られてきた血液を心臓に戻したいが、戻せない、戻る量が少なくなる
といった現象が起きてしまいます。
この場合何が起きるのかというと、脳内の血液がキャパオーバーになってしまい、
脳圧が上昇します。
この結果、意識レベルの低下なども起こりうるので、SCUなどの脳神経科患者の
人工呼吸器の設定において、PEEPは低めに設定されていることが多いです。

4つ目の尿量・肝機能の低下は2つ目のデメリットで心拍出量が低下することが
理解できたと思いますが、それに伴い、腎臓や肝臓への血液も低下するため、
それらの機能も低下します。

PEEPの実際

では実際にPEEPはどのようにして使われているのかというと、
基本設定は3~5mmHgであることが多いです。
もちろん、体格が大きい患者の場合はPEEPを高く設定する必要があったり、
体格の小さい患者の場合は基本設定でもVALIを引き起こす可能性があります。
個人差はありますが、患者ごとにPEEPの値も変更していくのが一般的です。

PEEPを上昇させる目的の多くは、酸素化の向上です。
もちろんデメリットを把握したうえでPEEPを上昇させていくのですが、
どうしても酸素化をよくしたい、という場合は肺損傷寸前までPEEPをかけてみるという
かなり積極的な治療をする場合もあります。
もちろんそれだけ重篤な患者だということはありますが、
それだけリスキーな治療をしているというのは理解するべきですし、
明確な目的もなく、ただ、酸素化が微妙という理由でPEEPを上げようとしている場合は
こちらからFiO₂で調整できないのかと提案するのも一つの手です。

そんなPEEPを用いた治療で最も輝くのが急性呼吸不全において急性心原性肺水腫への適応です。
これは心筋梗塞などの心臓の病気が原因で肺に水が溜まり、肺胞が機能しなくなることで
呼吸困難となっている症例です。
ちなみに体内では溺れているような状況になっているため、
治療時に適している寝転んだ状態(仰臥位)をとることができず、
座位で搬送される患者も多いです。

この時にNPPVが第一選択となり、特に急性呼吸不全からの低酸素血症において、PEEPが有効です。
PEEPによって息苦しさ、酸素化が向上されると患者も楽になり、仰臥位をとることが容易になり、
治療に進むことができます。

このように、PEEPが有効活用される場面は多々あるため、
適した設定で使用されると大きな効果をもたらせてくれます。

まとめ

今回はPEEPについて解説してきました。
正直私も臨床に出て最初の頃はよく意味が分かっておらず、
国試対策のために酸素化に良いということだけ覚えていました。

医療現場でその知識を活用するために重要なことはPEEPがなぜ酸素化にいいのかということ。
結論としてPEEPによって肺胞が膨らむおかけでガス交換が容易となり、
酸素化が改善されるということでしたね。

ここまで理解できると応用することもでき、根拠を持ってPEEPをこの設定にしていると
言えると思います。

一緒に頑張りましょう!