透析治療は、腎不全患者の命を支える重要な医療行為ですが、
治療中に血圧低下が起こると患者の安全が脅かされることがあります。
臨床工学技士として、透析時の血圧低下の原因を理解し、適切な対応や予防策を身につけることは、
質の高いケアを提供するために欠かせません。
この記事では、透析時の血圧低下の理由、対処法、予防策をわかりやすく解説します。
現場で即実践できる知識を詰め込み、患者の安全と快適な透析環境をサポートするためのヒントをお届けします!
- 透析時に血圧が低下する理由
- 血圧低下時の対策
- 血圧低下を予防する方法
透析時に血圧が低下する理由
透析時の血圧低下(透析中低血圧)は、透析患者の約20~50%で発生する一般的な合併症です。
この現象は、透析の仕組みや患者の体調、治療設定が関与する複数の要因によって引き起こされます。
以下に、血圧低下の主な原因を詳しく見ていきましょう。

- 体液の急激な除去
透析では、短時間で体内の余分な水分や老廃物を除去します。
この過程で血液量が急速に減少すると、循環血液量が不足し、血圧が低下することがあります。
特に、除水速度が速すぎる場合や、設定されたドライウェイトが適切でない場合にリスクが高まります。 - 自律神経系の影響
透析患者の多くは、腎不全による自律神経障害を抱えています。
これにより、血圧を維持するための血管収縮や心拍数の調整がうまく働かず、
血圧が低下しやすくなります。
特に高齢者や糖尿病患者で顕著です。 - 電解質や体温の変動
透析中に電解質(特にカリウムやカルシウム)のバランスが崩れたり、
透析液の温度が低すぎたりすると、血管の収縮や心機能に影響を及ぼし、
血圧低下を引き起こすことがあります。
透析時の血圧低下の多くは体液の急激な除去である除水が原因となります。
この除水を適切な設定にするのも臨床工学技士の腕の見せ所です。
なお、体液量(血液量)が低下することでなぜ血圧低下するのかと疑問に感じた場合は
ぜひこの記事を参考にしてください。
- 体液の急激な除去が血圧低下の主な原因
- 自律神経障害が血圧調節を困難にする
- 電解質バランスや透析液の温度設定に注意
透析時の血圧低下時の対応
透析中に血圧低下が起きた場合、迅速かつ適切な対応が求められます。
患者の状態を悪化させないためにも、臨床工学技士として冷静な判断と技術が不可欠です。
以下に、血圧低下時の具体的な対応策を紹介します。

- 透析の調整
血圧低下が確認された場合、まず除水速度を下げるか一時的に停止します。
透析装置の設定を調整し、除水量を減らすことで循環血液量の急激な減少を防ぎます。
また、患者の体位をトレンデレンブルグ体位(頭を下げ、足を上げる)に変更することで、
心臓への血流を改善できます。
さらに、透析液温を調整することで血圧上昇に期待することもできます。 - 生理食塩水の投与
血圧低下が持続する場合、生理食塩水を少量(100~200mL)投与して循環血液量を補充します。
ただし、過剰な投与は心負荷を増大させるため、医師の指示のもと慎重に行います。 - 患者のモニタリングとコミュニケーション
血圧低下の兆候(めまい、吐き気、冷や汗、あくびなど)を早期に察知するため、
患者の状態をこまめに観察します。
また、患者に症状を尋ね、安心感を与えるコミュニケーションも重要です。
血圧低下が頻発する場合は、医師と連携し、ドライウェイトや透析条件の見直しを提案します。
血圧低下の対応の中で、透析の調整や生理食塩水の投与は非常に重要となっています。
特に透析の調整は臨床工学技士が得意とする機械の操作となることが多いのでぜひマスターしましょう。
なお、透析液温の調整による血圧上昇については別で記事にしているのでこちらを参考にしてください。
ただ、最も重要なのは患者モニタリングとコミュニケーションではあります。
透析装置の設定や血圧の測定値だけで判断するのではなく、
機械の先にいる患者さんによって対応を変更することは非常に重要です。
- 除水速度の調整や体位変更で血圧低下に対応
- 生理食塩水の投与は医師の指示のもと慎重に
- 患者の症状を早期発見し、適切なコミュニケーションを
透析時の血圧低下を予防する方法
血圧低下は患者のQOL(生活の質)を下げるだけでなく、治療の安全性にも影響します。
臨床工学技士として、血圧低下を未然に防ぐための工夫が重要です。
以下に、予防のための具体的なアプローチを紹介します。
- 適切なドライウェイトの設定
ドライウェイトが低すぎると、透析中の血圧低下が起こりやすくなります。
患者の体重変化や浮腫の状態、血圧の推移を定期的に評価し、適切なドライウェイトを設定します。
必要に応じて、医師や看護師と連携して調整を行います。 - 透析条件の最適化
除水速度を患者の状態に合わせて調整し、急激な体液除去を避けます。
また、透析液の温度を37℃前後に設定することで、血管収縮を抑え、血圧の安定を図ります。
ナトリウムプロファイルやUFプロファイル(除水パターンの調整)を活用することも有効です。 - 患者教育と生活習慣の指導
患者自身が血圧低下を予防するため、透析前の過度な水分摂取や食事の制限を指導します。
特に、透析当日の過剰な飲食は血圧低下のリスクを高めるため、適切な水分管理をサポートします。
また、透析中の快適な環境(室温やリラックスできる空間)を提供することも血圧安定に寄与します。
特に透析開始時の除水設定は重要で、考えなしでDWまで除水しようとするとそのまま血圧が…
なんてことは珍しくないです。
常に過剰な除水設定となる場合は適切なDWの設定が重要となりますが、外来患者の場合は
そもそも体重を大幅に増加させないように生活習慣を指導することが重要です。
DWの適切な設定についてはこちらの記事を参考にしてください。
今回紹介した予防策をしっかり実践し、
それでも血圧が低下する場合は血圧を上昇させるようにコントロールしていきましょう。
- ドライウェイトの適切な設定が血圧低下予防の鍵
- 透析液の温度や除水パターンを最適化
- 患者教育で水分管理や生活習慣をサポート
まとめ
透析時の血圧低下は、患者の安全と治療の質に直結する重要な課題です。
臨床工学技士として、血圧低下の原因を理解し、適切な対応策を講じることで、
患者の快適な透析環境を支えることができます。
体液の急激な除去や自律神経障害、電解質バランスの乱れが主な原因であり、
除水速度の調整や生理食塩水の投与、患者のモニタリングが効果的な対処法です。
さらに、ドライウェイトの最適化や透析条件の工夫、患者教育を通じて血圧低下を予防することが、
長期的な透析の成功につながります。
なお、どうコントロールしても透析が困難な場合はCHDFも検討されてきますので、
その点についても理解しておいてください。
今回の記事を参考に、現場で自信を持って対応できるようになることを願っています!
患者一人ひとりに寄り添い、安全で質の高い透析治療を提供しましょう。
一緒に頑張りましょう!
