血圧が下がったとき、なぜそのカテコラミン?
―医師の選択理由が分かる昇圧薬の考え方―
ICUで患者さんの血圧が下がったとき、
「ノルアド上げて」
「ドパミン追加で」
「ドブタミン入れようか」
こうした指示が飛び交う場面は珍しくありません。
しかし臨床工学技士として
「なぜ今、その薬なのか」
を即座に説明できますか?
血圧が低いという事実は同じでも、
選ばれるカテコラミンは患者ごとに違います。
ここで多くの新人臨床工学技士はこう止まります。
・血圧を上げたいだけじゃないのか
・同じ低血圧なのに薬が変わる理由が分からない
・αだのβだのは知っているが、臨床とつながらない
実は、医師がカテコラミンを選ぶ基準は「血圧」そのものではありません。
この記事では、
「血圧が下がった=とりあえず昇圧」
から一段上の考え方を整理します。
- 血圧低下時、医師が何に困っているかの考え方
- ノルアド・アドレナリン・ドブタミンが選ばれる理由の違い
- カテコラミンを見たときに患者状態を推測する視点
カテコラミンについて

まず、カテコラミンは副腎髄質ホルモンの1種で、アドレナリン・ノルアドレナリン・ドパミンなどがあります。
このホルモンは交感神経で支配されています。
カテコラミンの作用として一言で説明すると、血圧を上昇させる作用があります。
では、いったい血圧をどのように上昇させているのかを把握するためにまずは血圧の考え方をおさらいしましょう。
BP(血圧)=CO(心拍出量)×SVR(末梢血管抵抗)
つまり、カテコラミンはCOまたはSVRを上昇させる作用があるということです。
カテコラミンは心臓や血管、気管支などに存在するα、β受容体に作用して様々な作用を引き起こします。
この作用は反応する受容体によって変化します。
- α₁,α₂受容体→CO上昇
- β₁受容体→SVR(末梢血管抵抗)
- β₂受容体→気管支拡張、腎血管拡張
これらの作用がどれほどの強度があるのかはカテコラミンの種類によって異なります。
- カテコラミンの作用は心拍出量増加と血管収縮作用
- 受容体の作用の強度によって使用用途が異なる
カテコラミンの種類

カテコラミンの種類は主に6種類あります。
ここから順番に紹介していきます。
フェニレフリン

フェニレフリン(商品名:ネオシネジン)はα刺激作用のみを持っているカテコラミンになります。
主な作用としては血管収縮のみです。
ただし、血管収縮のみの作用であるため、心拍出量が低下する作用もあり、
血圧を上昇させるために投与したがそこまで上がらないという現象が生じます。
メリットとしては心臓には作用しないため、心負荷は他のカテコラミンに比べると少ないという点です。
- 全身麻酔時の血圧低下時
- 透析中の血圧低下時
ノルアドレナリン
「血圧は低いが、心臓をこれ以上いじめたくない」ときに選ばれる薬
血圧が下がっている患者さんを前にして、
医師がノルアドレナリンを選ぶ場面には、ある共通した「困り」があります。
それは
「心拍出量を無理に上げずに、血圧だけを支えたい」
という状況です。

例えば、敗血症性ショックや血管拡張が主体の低血圧では、
心臓そのものはまだある程度動いているにもかかわらず、
末梢血管が開きすぎて血圧が保てなくなっています。
このとき問題になっているのは心臓ではなく、
血管が締まらないことです。
ノルアドレナリンは、α作用を主体とした強い血管収縮作用を持ち、
末梢血管抵抗を上げることで血圧を支えます。
一部β作用も持つため、フェニレフリンのように
心拍出量を下げすぎてしまうリスクが比較的少ないのも特徴です。
そのため医師は、
「とにかく血圧を上げたい」ではなく、
「今は血管を締めることが最優先」
と判断したときにノルアドレナリンを選択します。
臨床工学技士としてノルアドレナリンが使われているのを見たときは、
心機能よりも血管収縮力の低下が問題になっている
という視点で患者さんを見ることが重要です。
- 血管収縮薬としての使用
- 敗血症性ショック
アドレナリン
「血圧も心拍出量も、とにかく今すぐ上げたい」ときに選ばれる薬
患者さんの血圧が急激に低下し、
循環が崩れかけている、あるいはすでに崩れている状況で、
医師がアドレナリンを選ぶときの困りは非常に明確です。
それは
「もう待てない。循環を一気に立て直す必要がある」
という状態です。

アドレナリンはα刺激作用とβ刺激作用を持っているカテコラミンになります。
主な作用としては血管収縮と心拍出量増加です。
アドレナリンはα、β共に強い作用を持っており、血圧を上昇させるためには最も強い作用があります。
また、β作用が強いため、B₂作用も発生し、気管支拡張などの影響もあります。
この作用がある事で、アナフィラキシーショックや気管支喘息などの気管支閉塞に対しても有効です。
- 全ての心停止
- アナフィラキシーショック
ドパミン

ドパミン(商品名:イノバン)は投与量によって作用が変化するカテコラミンになります。
主な作用としては血管収縮と心拍出量増加、利尿作用です。
ドパミンは投与量で作用が変化するため、非常に扱いずらいカテコラミンにもなります。
- 少量(<3γ) 腎血流増加による利尿作用
- 中等量(3~10γ) 心拍出量増加
- 高用量(>10γ) 血管収縮
ドパミンは投与量によって作用が変化するので他のカテコラミンに比べてもより流量のミスが
許されない薬剤にもなります。
ただし、中等量、高用量使用するよりはアドレナリンを使用したほうが効果的なので、
少量で使用することが多いです。
- 利尿目的(水分過多の心不全)
ドブタミン

ドブタミンはβ刺激作用がメインで一部α刺激作用を持っているカテコラミンになります。
主な作用としては強い心拍出量増加と血管収縮、一部血管拡張作用です。
イソプレナシンのデメリットでもある血管拡張の影響を少なくし、強い心拍出量増加を持っているため、
スタンダードな強心薬としても知られています。
このイソプレナシンのデメリットはこの後紹介します。
- 強心薬としての使用
- 心不全適応
イソプロテレロール

イソプロテレロール(商品名:プロタノール)はβ刺激作用のみを持っているカテコラミンになります。
主な作用としては心拍出量増加と血管拡張作用です。
ただし、血管拡張は血圧低下を引き起こすため、結果として
血圧を上昇させるために投与したがそこまで上がらないという現象が生じます。
メリットとしては末梢血管に影響はないため、末梢部分にも血液は流れます。
また、心拍出量増加の作用が強いため、頻脈や頻脈性不整脈を引き起こす危険性もあります。
- 徐脈時の緊急対応
各種カテコラミンの比較

各種カテコラミンを比較したものを一覧にしました。
カテコラミンの中でもメインで使用されるのはノルアドレナリン・アドレナリン・ドブタミンの3種類です。
- カテコラミンで主に使用されるのはノルアドレナリン・アドレナリン・ドブタミンの3種類
- α作用とβ作用のどちらが強いかでカテコラミンの作用が変化する
まとめ
今回はカテコラミンについて紹介しました。
カテコラミンは集中治療領域において重要な薬剤の一つです。
緊急時には必ずと言っていいほど使用されるため、一度は聞いたことがあるかと思います。
どのカテコラミンがどれぐらい使われているのかでいろいろな考え方ができるようになります。
例えば、末梢が締まっていてSpO₂がうまく測れないなんて時は
α作用の強いカテコラミンが使用されていると推測できます。
このような考え方がわかると別の視点から患者さんのことを把握することができるため、
臨床現場でも非常に有効です。
一緒に頑張りましょう!



