心不全は、臨床工学技士にとって重要な関与分野の一つです。
特に、HFrEF(駆出率が低下した心不全)とHFpEF(駆出率が保持された心不全)は、
心不全の二大分類として知られ、それぞれ異なる病態と対応が求められます。
心不全にはこのほかにも多くの分類があり、私も最初の頃はよくわからなくなっていました。
この記事では、心不全の分類について臨床工学技士が現場で押さえるべきポイントを解説します。
- 心不全について
- 心不全の分類について
- HFrEFとHFpEFについて
心不全とは
まず、心不全は、心臓が全身に十分な血液を送り出せない状態を指します。
心不全の原因の一例は以下の通りです。
- 心筋障害
冠動脈狭窄などによる心不全→カテ治療で対応 - 血行動態的負荷
弁疾患→心臓外科手術で対応 - 不整脈
致死性頻脈や徐脈→植え込み型デバイスで対応
心不全を放置しておくと心原性ショックを引き起こし、命の危機となります。
ショックについては以下の記事をご参照ください。
この心不全なのですが、診断基準はさまざまあり、そのたびに多くの単語が現れるため、
よく分からなくなることがあると思います。
しかし、これらの違いを理解することは、臨床工学技士が適切な機器を扱い、患者ケアに貢献する第一歩です。
ここから順番に確認していきましょう。
心不全の分類について
心不全の分類は、目的や場面に応じて使い分けられます。
具体的には、以下の7つの視点があります。
- 急性・慢性に基づく分類
発症のタイミングにて評価 - 原因に基づく分類
基礎疾患にて評価 - 駆出率(EF)に基づく分類
心エコーにて評価 - 機能的状態に基づく分類(NYHA分類)
患者の症状と活動能力にて評価 - 障害部位に基づく分類
血行動態にて評価 - 重症度に基づく分類(ACC/AHAステージ)
進行度にて評価 - 血行動態に基づく分類(Forrester分類)
スワンガンツカテーテルにて評価
急性・慢性に基づく分類
まず、心不全と判断された場合はその発症のタイミングによって2種類に分類されます。
- 急性心不全
突然の発症または既存心不全の急激な悪化 低血圧や肺水腫を伴うことが多く、緊急対応が必要- De Novo(初発)急性心不全
これまで心不全の既往がない患者が初めて急性心不全を発症するケース
急性心筋梗塞や急性弁膜症、急性肺塞栓症などが原因 - 急性増悪(Acute Decompensation)
慢性心不全の患者が、なんらかのきっかけで急激に悪化する状態
薬の不遵守や感染症、新たな心筋虚血などが原因
- De Novo(初発)急性心不全
- 慢性心不全
数週間~数年にわたり進行 管理が長期化している状態- 代償性慢性心不全(Compensated Chronic Heart Failure)
心不全があっても、心臓や全身の代償機構(例: 心肥大、神経体液性因子)が働き、
症状が安定している状態 - 非代償性慢性心不全(Decompensated Chronic Heart Failure)
代償機構が破綻し、症状が悪化して安定を失った状態。急性増悪と重なる場合も多い。
体液貯留の増悪や心筋障害の進行などが原因
- 代償性慢性心不全(Compensated Chronic Heart Failure)
臨床工学技士として、急性ではIABPやECMOの準備、慢性では在宅酸素療法(HOT)の調整に関与しています。
しかし、この分類は治療方針の決定というよりも患者さんの現状といったイメージです。
代償性慢性心不全以外の場合は臨床工学技士が緊急で関わる可能性があるので、その点は把握しておきましょう。
原因に基づく分類
心不全は基礎疾患によって2種類に分類されます。
- 虚血性
冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)が原因 心筋虚血で収縮力低下 - 非虚血性
高血圧(左室肥大)、心筋症(拡張型/肥大型)、弁膜症(僧帽弁逆流など)、毒性(アルコール、薬剤)
臨床工学技士として、虚血性では冠動脈造影の準備が必要となります。
非虚血性では心エコーでの構造評価が重要となり、結果次第では心臓外科手術の適応になることもあります。
この分類はつまり心不全の原因が心筋梗塞、狭心症によるものなのかどうかというものです。
データ的な情報が少ないため、緊急時はトロポニンやCK、心電図のST変化から虚血性心不全と判断し、
最終的な分類は冠動脈造影後となります。
(造影で狭窄があれば虚血性、なければ非虚血性)
駆出率(EF)に基づく分類
心不全の基本的な分類で、心エコーで得られる左室駆出率(LVEF)を指標に3つに分類されます。
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- HFrEF:ヘフレフ(駆出率低下心不全)
LVEF < 40% 心筋の収縮力が低下し、血液を送り出す能力が不足(収縮期心不全)
心エコーでは左室拡大と壁運動異常が顕著
原因は心筋梗塞、拡張型心筋症、ウイルス性心筋炎など - HFmrEF(中間駆出率心不全)
LVEF 40-49% HFrEFとHFpEFの中間的特徴を持ち、治療反応が両者にまたがる - HFpEF:ヘフぺフ(駆出率保持心不全)
LVEF ≥ 50% 拡張期に心室が十分緩まず、血液充満が障害される(拡張期心不全)
心エコーで左室壁肥厚や左房拡大が見られる E/A比やE/e’比も重要となる
原因は高血圧、糖尿病、加齢による心筋の硬化
このEFによる分類は心エコーという非侵襲的な方法を用いて数値で評価するため、
心不全の評価としては非常に参考になり、よくこの方法が用いられています。
主に左室の収縮機能が原因の心不全なのか拡張機能が原因の心不全なのかを判断できます。
ここで重要なのはEFが保たれていても拡張期に問題があれば心不全になる可能性があるということです。
また、HFrEFの状態を収縮期心不全、HFpEFの状態を拡張期心不全といいます。
機能的状態に基づく分類(NYHA分類)
心不全の機能的状態に基づく分類としてNYHA分類があります。
ニューヨーク心臓協会(NYHA)が定めた分類で、患者の症状と日常生活への影響を4段階で評価します。
この分類では心不全の重症度を表しています。
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NYHAは主観的評価を含むため、心肺運動負荷試験(CPX)で客観的データを補うこともあります。
分類後もモニタリング装置(例: 心拍数、SpO2)で症状の変化を捉え、
クラス進行の兆候をとらえておくことが重要です。
障害部位に基づく分類
心不全の原因となる心臓の障害部位で分類されることもあります。
これは診断名としても使用されることが多く、皆さんもよく耳にしたことがあると思います。
- 左心不全
左室/左房の機能障害 肺動脈楔入圧(PCWP)上昇で肺うっ血
急性心筋梗塞や大動脈弁狭窄症が主な原因 - 右心不全
右室/右房の機能障害 中心静脈圧(CVP)上昇で末梢浮腫、肝うっ血、腹水が顕著
肺高血圧や右室梗塞が主な原因
右心不全は左心不全の結果として二次的に発生することも多い(例: 肺うっ血→肺高血圧) - 両心不全
左右両方の障害が混在
例: 重症心筋症で左心不全が進行し、右心不全を誘発
左系が原因の疾患なのか、右系が原因の疾患なのかを理解しておくのは治療方針を決定するのに非常に重要です。
患者さんの治療に携わる際にも確認しておくのがいいですね。
これらの判断はスワンガンツカテーテルの検査で測定できる数値を基に評価します。
重症度に基づく分類(ACC/AHA分類)
心不全の進行度を示すものとしてACC/AHA分類があります。
この分類はNYHA分類と類似していると思われますが、NYHAと異なり不可逆的で、
予防から終末期までを網羅しているのがポイントです。
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ステージAの段階では心不全発症前なので、NYHA分類で該当するものはないですが、
それ以降は心疾患が生じているため、心不全のリスクが高まります。
NYHA分類とは異なり、患者さんの症状は考慮されないため、心不全の進行度は正確です。
ただ、明確な指標はないため、この分類も他の指標を参考にする必要があります。
血行動態に基づく分類(Forrester分類)
急性心不全の血行動態でForrester分類という4種類に分類する方法があります。
これはスワンガンツカテーテルでの検査が必要なため、侵襲的な検査となります。
ただし、心不全の正確な判断には最も参考になる分類で、ICUなどでは常時計測する場合もあります。
主な測定値はCI(心係数)とPCWP(肺動脈楔入圧)を用いています。

- I型
灌流良好(CI > 2.2) うっ血なし(PCWP < 18)
正常 - II型
灌流良好、うっ血あり(PCWP > 18)
肺うっ血 - III型
灌流不良(CI < 2.2)、うっ血なし
抹消循環不全 - IV型
灌流不良、うっ血あり
心原性ショック
臨床工学技士として、スワンガンツカテーテルを用いる検査に携わることはよくあります。
その中でもフォレスター分類は必ず使用するので覚えておきましょう。
フォレスター分類について知りたい方はこちらの記事を参考にしてください
まとめ
今回は心不全の分類について紹介してきました。
心不全の7分類は、それぞれ異なる切り口で病態を捉えます。
駆出率や血行動態は機器操作に直結し、NYHAやACC/AHAは患者状態の把握に役立ちます。
臨床工学技士として、これらを統合的に理解し、現場で活かしてください。
心不全の状態がわかれば治療方針も明確化します。
これら7つの分類を覚えておけば医師のカルテを見てもほぼほぼ問題ないでしょう。
もちろんこれ全て使用しているという医師はいないと思うので、まずは自施設の医師が良く使用する
分類から覚えていきましょう!
臨床工学技士としてはフォレスター分類が最も直接的に関与していると思います!
一緒に頑張りましょう!