pH異常を見逃すな: pH管理のコツと対応方法について

pH管理のコツと対応方法について 臨床生理

医師はもちろん、看護師など、医療従事者として患者を管理する上で当然の知識であるpH。

血液ガス分析は、患者の呼吸状態や代謝状態を把握する重要なツールであり、pH管理はその中核を担います。

しかし、教科書通りの知識だけでは対応しきれない場面も多いはずです。

この記事では、血液ガス分析におけるpH管理のコツを徹底解説します。
現場で一歩先を行くための実践的知識を身につけましょう。

この記事でわかること
  • pHについて
  • pH管理について
  • アシドーシス、アルカローシスの症状について

血液ガス分析とpHの基本をおさらい

血液ガス分析(Arterial Blood Gas, ABG)は、動脈血中の酸素分圧(PaO₂)、二酸化炭素分圧(PaCO₂)、pH、HCO₃⁻(重炭酸イオン)などを測定し、患者の酸塩基平衡や換気状態を評価する検査です。

pHは血液の酸性・アルカリ性を示す指標で、正常範囲は7.35~7.45。
この狭い範囲から外れると、アシドーシス(pH < 7.35)やアルカローシス(pH > 7.45)が発生し、
生命に影響を及ぼす可能性があります。

pHは以下のヘンダーソン・ハッセルバルヒ方程式で表されます

ここで、PaCO₂は呼吸性因子、HCO₃⁻は代謝性因子として働きます。
このバランスが崩れると、pH異常が引き起こされるのです。

  • pHは人体の体液が酸性かアルカリ性に傾いているかの判断ができる
  • pHの正常値は7.4±0.05(7.35~7.45)
  • PaCO₂は呼吸性因子、HCO₃⁻は代謝性因子として働く
  • pHは7.35以下になるとアシドーシス、7.45以上になるとアルカローシス

pH管理のコツ: 現場で押さえるべきポイント

血液ガス測定を行う際、まず一番最初に目に入るのはpHです。
正常範囲内に入っている場合は問題ないですが、pHが正常範囲外の場合、まず呼吸性か代謝性かを判断します

呼吸性と代謝性の判断
  • pH < 7.35かつPaCO₂ > 45 mmHg → 呼吸性アシドーシス
  • pH < 7.35かつHCO₃⁻ < 22 mEq/L → 代謝性アシドーシス
  • pH > 7.45かつPaCO₂ < 35 mmHg → 呼吸性アルカローシス
  • pH > 7.45かつHCO₃⁻ > 26 mEq/L → 代謝性アルカローシス

例えば、PaCO₂が60mmHgでpHが7.25なら、換気不全による呼吸性アシドーシスが疑われます。
現場では人工呼吸器の設定(換気量や呼吸数)を確認し、医師と連携して調整することが求められます。

なお、pH異常が発生すると、体は補正を試みます。
呼吸性アシドーシスなら腎臓がHCO₃⁻を再吸収して代謝性アルカリ性を高め、
代謝性アシドーシスなら換気を増やしてPaCO₂を下げます。


この補正がどの程度進んでいるかは、アニオンギャップ(AG = Na⁺ – (Cl⁻ + HCO₃⁻))やベースエクセス(BE)
チェックすることで分かります。
AGが12 mEq/Lを超える場合、乳酸アシドーシスなどの代謝性異常を疑いましょう。

なお、pHが正常でも、PaCO₂とHCO₃⁻が両方異常なら「混合性障害」の可能性があります。
例えば、pH 7.38、PaCO₂ 50 mmHg、HCO₃⁻ 30 mEq/Lなら、
呼吸性アシドーシスと代謝性アルカローシスが共存している状態です。

単純な異常と見逃さず、全体像を把握する癖をつけましょう。

  • PaCO₂とHCO₃⁻からpH変動の原因を突き止められる
  • pHが変動している場合、体内で補正が生じている
  • 補正具合はAGやBEで確認

アシドーシス・アルカローシスの対策

pHが異常値であるアシドーシス・アルカローシスが生じている場合、放置せずに改善するように
治療を行う必要があります。
この治療方針を決める為にはまずは原因を突き止める必要があるため、
pH変動の原因が呼吸性なのか、代謝性なのかを理解しましょう。

呼吸性アシドーシス

呼吸性アシドーシスはPaCO₂の上昇(>45 mmHg)によるpH低下(<7.35)が原因となっています。
換気不全(COPD、肺炎、麻薬性呼吸抑制など)が主な要因として挙げられます。

対策としては以下の治療が考えられます。

呼吸性アシドーシスへの対策
  1. 換気改善
    人工呼吸器を使用している場合、換気量(VT)や呼吸数(RR)を増やしてPaCO₂を下げる
    例:
    VTを6-8 mL/kgから8-10 mL/kgに調整
  2. 気道管理
    気道閉塞があれば吸引や気管挿管で確保
  3. 基礎疾患治療
    COPDなら気管支拡張薬、肺炎なら抗菌薬を医師が投与
  4. モニタリング
    血液ガス分析を頻回に行い、pHとPaCO₂のトレンドを確認

ただし、急激なPaCO₂低下は呼吸性アルカローシスを引き起こすため、段階的な調整が必要です。

呼吸性アルカローシス

PaCO₂の低下(<35 mmHg)によるpH上昇(>7.45)が原因となっています。
過換気(不安、パニック発作、人工呼吸器の過剰設定)が主な要因として挙げられます。

対策としては以下の治療が考えられます。

呼吸性アルカローシスへの対策
  1. 換気調整
    人工呼吸器の場合、VTやRRを減らす
    例: RRを20回/分から15回/分に
  2. 患者指導
    自発呼吸の場合、紙袋呼吸(CO₂再吸入)は推奨されないが、ゆっくり深呼吸を促す
  3. 原因除去
    低酸素血症(PaO₂低下)が過換気を誘発している場合、酸素投与を最適化
  4. モニタリング
    pHが正常化するまで血液ガスをチェック

ただし、急激な換気抑制は低酸素血症を悪化させるリスクがあるため、PaO₂も注視する必要があります。

代謝性アシドーシス

HCO₃⁻の低下(<22 mEq/L)によるpH低下(<7.35)が原因となっています。
乳酸アシドーシス(ショック)、ケトアシドーシス(糖尿病)、腎不全などが主な要因として挙げられます。

対策としては以下の治療が考えられます。

代謝性アシドーシスへの対策
  1. 原因治療
    乳酸アシドーシスなら循環改善(輸液や昇圧剤)、ケトアシドーシスならインスリン投与
  2. 重炭酸ナトリウム投与
    pH < 7.1の重症例で医師が指示する場合、NaHCO₃を静注
    ただし、過剰投与で代謝性アルカローシスを誘発するリスクあり
  3. 透析
    腎不全や薬物中毒で代謝産物が蓄積した場合、血液透析で酸性物質を除去
  4. モニタリング
    アニオンギャップ(AG)を計算し、高AGなら乳酸やケトン体を疑う

ただし、透析中は透析液のHCO₃⁻濃度(通常35 mEq/L)を調整し、急激なpH補正を避ける必要があります。

代謝性アルカローシス

HCO₃⁻の上昇(>26 mEq/L)によるpH上昇(>7.45)が原因となっています。
嘔吐(H⁺喪失)、利尿剤過剰使用、アルカリ剤過剰投与など主な要因として挙げられます。

対策としては以下の治療が考えられます。

代謝性アルカローシスへの対策
  1. 原因除去
    嘔吐なら制吐剤、利尿剤なら投与中止
  2. 電解質補正
    低カリウム血症(K⁺ < 3.5 mEq/L)が関与する場合、KClを補充
  3. 生理食塩水投与
    容量減少性アルカローシス(嘔吐や利尿剤)ならNaClでCl⁻を補給し、腎でのHCO₃⁻排泄を促進
  4. 透析
    重症例でHCO₃⁻を直接除去

ただし、急激な補正は低カルシウム血症(テタニー)を誘発する可能性があるので注意する必要があります。

  • 呼吸性の場合は人工呼吸器で調整
  • 代謝性の場合は透析治療で調整

アシドーシス、アルカローシスの状態を放置するとどうなるのか

アシドーシスやアルカローシスは体内の電解質が異常になっていることを表しています。
もちろん発見次第治療を行う必要があるのですが、仮にこの状態で放置するとどうなるのかを見て行きましょう。

アシドーシスの症状

アシドーシスの状態が続くと以下の症状が発症します。

アシドーシスの症状
  • 心血管系
    pH低下(<7.2)で心筋収縮力低下、心室細動リスク増大
  • 神経系
    意識障害、昏睡
  • 代謝
    カリウムが細胞外に移動し、高カリウム血症(>6.0 mEq/L)で不整脈
  • カテコラミンの効果低下
    アドレナリンやノルアドレナリンなどのカテコラミンは、
    pH < 7.1で受容体親和性が低下し、酸性環境でβ受容体の反応性が落ちるため、昇圧効果が激減

    特にショック状態で代謝性アシドーシスが進行すると、救命処置が困難に

未治療の場合、多臓器不全や最悪の場合死に至る危険性もあると言われています。

特にカテコラミンの効果低下は非常に恐ろしく、アシドーシスのままショック状態になると
アドレナリンなどを使った救急処置も効果が薄く、血圧上昇が非常に困難になります。

アルカローシスの症状

アルカローシスの状態が続くと以下の症状が発症します。

アルカローシスの症状
  • 神経系
    pH上昇で脳血管収縮が起こり、脳血流低下からめまい、痙攣、意識障害
  • 電解質異常
    低カルシウム血症(イオン化Ca²⁺減少)でテタニーや筋痙攣、低カリウム血症で不整脈
  • 呼吸抑制
    呼吸性アルカローシスが重度の場合、CO₂感受性が低下し呼吸停止リスク

未治療の場合、神経障害や心停止に至る可能性があり、
特に代謝性アルカローシスは、体内がpHを正常化しようとする代償機制が働きます。
具体的には、呼吸中枢がCO₂感受性を低下させ、換気を抑制する傾向あるため、
低酸素血症を悪化させるリスクがあります。


放置した場合の重篤な影響を考えると、早期発見と適切な介入が生命予後を左右します。

  • アシドーシスはカテコラミンの効果が薄くなる危険性がある
  • アルカローシスは呼吸抑制の危険性がある

まとめ

今回は患者を管理する大きな指標の1つであるpHについて解説してきました。

血液ガス分析のpH管理は、単なる数値の読み取りを超え、患者の命を支える技術です。
人工呼吸器や透析装置の設定を調整する際、pHのトレンドをリアルタイムで把握することが重要です。
アシドーシス、アルカローシスの状態を放置した場合の重篤な影響を考えると、
早期発見と適切な介入が生命予後を左右します。

ぜひpHについてマスターし、臨床現場に活かしていきましょう!

一緒に頑張りましょう!

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