皆さんは心臓血管カテーテル治療を業務の一つとして行っていますか?
初めのうちは使用する大量の物品と、血管を覚えることができず、苦労していると思います。
ですが、心臓カテーテル治療の基本中の基本として、薬物療法も存在します。
それがDAPTです。
これ臨床工学技士にとってはほとんど業務に関係ないのですが、
なんとなく「あーDAPTね」って感じで放置していませんか?
カテーテル治療を行う上では必須級の薬物であるDAPTがわかってくれば
心臓カテーテル治療後の患者さんの流れも見えてきます。
知ってて損はないはずですし、知っていると信頼される臨床工学技士になれます。
全く意味のない内容ではないので、ぜひ最後まで見て行ってください。
DAPTとは
DAPT(Dual Anti-Platelet Therapy)は抗血小板薬2剤併用療法という薬物療法の名称です。
つまり、基本的に2剤併用して抗血小板薬を使用するということです。
主に使用される薬剤は
アスピリン(商品名 バイアスピリン)
クロピトグレル硫酸塩(商品名 プラビックス)
プラスグレル塩酸塩(商品名 エフィエント)
などがありますが、
基本的には非ステロイド性抗炎症薬(バイアスピリン)と
チエノピリジン系抗血小板薬(プラビックス、エフィエント)が併用されます。
つまり、実際の臨床現場でDAPTといえば
バイアスピリンとプラビックスorエフィエントの併用のことです。
この2剤を併用すると強力な血栓予防効果が期待できるのですが、
欠点としては出血リスクが高くなるという点があります。
そのため、心臓カテーテル治療を行うにあたり、使用前に内服しているかどうかを確認しているのは
出血リスクを把握するために重要です。
非ステロイド性抗炎症薬
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)としてアスピリンが用いられています。
この薬剤の作用としては
血小板にあるシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害することで
血小板による凝固作用を抑制しています。
適応としては
狭心症、心筋梗塞、虚血性脳血管障害の血栓・塞栓形成の予防
CABG、PTCA後の血栓・塞栓形成の抑制
川崎病
となっています。
つまり、PCI治療後も当然適応にはなっているのですが、
実はPCIの前から内服されている可能性も大いにあるということです。
禁忌としては
消化管潰瘍のある場合
アスピリン喘息
出産予定から12週以内の妊婦
とされています。
チエノピリジン系抗血小板薬
チエノピリジン系抗血小板薬としてプラビックス、エフィエントが用いられています。
この薬の作用としてはADP受容体のP2Y₁₂受容体に作用して血小板による凝固作用を抑制しています。
この2種類の特徴としては
個人差が大きいが適応範囲が広いプラビックス
個人差は小さいが適応範囲が限定的なエフィエント
といった違いがあります。
プラビックスをもう少し詳しく説明すると、薬として作用するためには
CYP2C19という肝臓の代謝酵素による代謝を受ける必要があるのですが、
この酵素は個人差が多く、人によっては薬の効果が出ない場合があります。
その点で個人差が大きいということです。
ただ、適応範囲が広いということも知られており、
心臓、脳、末梢の3つの領域が適応範囲となっています。
一方で、エフィエントは代謝酵素による代謝を受ける必要がなく、
さらには腎機能や肝機能、喫煙の有無などの個人差も影響せず、
誰に対しても同レベルの抗血小板作用があります。
この点がエフィエントの最大の長所で、医師が処方する際もエフィエントの方が多い印象です。
ただ、適応範囲は
心臓に限定されており、
PCIが適応される虚血性心疾患
となっています。
(2.5mg~3.75mgの場合は虚血性脳障害も適応)
DAPTの目的
DAPTの目的としては
①PCI後のステント内血栓塞栓の予防
②急性期脳梗塞における神経症状の悪化や再発予防
ちなみに使用される目的の過半数はPCI後のステント内血栓塞栓の予防となっています。
急性期脳梗塞にも一応使えるというのは覚えておいて損はないです。
DAPTの最大の特徴は作用の異なる2種類の抗血小板薬を併用することなのですが、
2剤併用の理由は単剤服用の場合や抗凝固薬などを併用する場合に比べて
最も効果的だったのが2種類の抗血小板薬の併用だったからです。
現在のPCIでは大多数が薬剤溶出性ステントであるDESが用いられているため、
以前の金属製ステントBESに比べて再狭窄リスクは大幅に減少しましたが、
それでもステント内血栓による再狭窄は存在しています。
BESが主流の時代から有効だったDAPTを使用することで再狭窄リスクは最小限に抑えられています。
DAPTの使用期間
ではDAPTはいつまで使用するのかという点についてですが、
臨床工学技士としては
結論、医師の判断によるためわかりません
となります。
ですが、出血リスクの有無やステントの置き方、残枝があるかどうかなど
様々な観点から総合的に使用期間が決まります。
一応日本循環器学会のガイドラインによると
急性冠症候群の場合は1年間
安定冠症候群の場合は半年
程度であるとされています。
ただ、最終的な判断は医師によるので、使用期間は大体この程度ぐらいで問題ありません。
まとめ
今回はDAPTについて紹介してきました。
普段から心臓カテーテル治療に携わっている臨床工学技士でも
ここまで把握しているスタッフはなかなかいません。
これはチーム医療が主流となった現代において、機器に特化している私達が把握していないのは
当然かもしれません。
実際の現場でDAPTの話になった場合、一番頼りにされるのはほぼ間違いなく薬剤師です。
これは私達でいう機器の故障時と同じイメージなので、この領域には手が出ません。
ただ、心臓血管カテーテルのチームとしてある程度知っているとカンファレンスにもついていけますし、
知らないよりは知っている方が自身が付きます。
何かあった時に役立つ知識があれば、それは自信にも繋がります。
一緒に頑張りましょう!