心機能を評価する際に皆さんはどのような測定値が必要かと思われますか?
心拍出量や心係数など、様々なものがあり、わからないといった人も多いかと思います。
今回はそんな心機能評価に特化したスワンガンツカテーテルについて紹介していきます。
通称右心カテと分類される手技で、ここから治療というわけではなく、
あくまで検査の一種なのですが、そんなに珍しい検査でもないため、カテ室で勤務するためには
しっかり覚えておく必要があります。
私も新人の頃は何をやっているのか全く分かりませんでしたが
分かるようになると検査中もしっかり動けるようになるのでぜひ最後まで見て行ってください。
スワンガンツカテーテルについて
まず、スワンガンツカテーテルはEdwards社(エドワード社)が開発した
心機能評価するためのカテーテルです。
スワンガンツカテーテルは先端にバルーンの付いた血流誘導式の肺動脈カテーテルです。
この検査は心不全など、心機能が低下している原因が心臓にある際に評価されます。
これにより心筋梗塞後の心室中隔穿孔や僧帽弁閉鎖不全、
肺水腫の原因特定、心タンポナーデの診断、フォレスター分類の判別にも使用できます。
つまり、スワンガンツカテーテルを使用する目的は
心機能異常を詳細に把握することです。
スワンガンツカテーテルのアプローチ部位
スワンガンツカテーテルは通常のカテーテル検査、治療と異なり、静脈からアプローチします。
ちなみにEdwards社のスワンガンツカテーテル6Frのため、
使用する際には一緒に6Frシースも必要となります。
アプローチ部位に関しては主に
・内頚静脈
・鎖骨下静脈
・上腕静脈
・大腿静脈
の4ヵ所です。
そのうち特に使用頻度が高いのは内頚静脈と大腿静脈です。
基本的にはどちらか片方の静脈がアプローチに使用されます。
スワンガンツカテーテルの検査項目
スワンガンツカテーテルの検査項目は主に2つあります。
①心内圧測定
②心拍出量測定
まず、心内圧測定についてですが、スワンガンツカテーテルでは主に4か所の
心内圧の測定を行います。
測定の順番は施設によって異なることがあるかもしれませんが、
基本的には末梢の部分から測定することとなるため、
①PCWP(肺動脈楔入圧)
②PAP(肺動脈圧)
③RVP(右心室圧)
④RAP(右心房圧)
という測定順番になります。
つぎに心拍出量の測定についてですが、スワンガンツカテーテルには冷水を注入するための穴と
温度を測定するための温度センサ(サーミスタ)がついています。
スワンガンツカテーテルを先端まで進めた際、
この冷水を注入するための穴は、右心房内に位置し、
温度センサは肺動脈内に位置します。
心拍出量の測定手順については
①冷水を勢いよく右心房内へ注入する
②右心房内を含め、心臓内の血液の温度が一時的に低下する
③この温度の下がった血液はサーミスタで感知され、冷水注入前に血液温が元に戻るまでの時間を測定する
ということです。
この低下した血液温が元に戻るまでの時間がわかると、おおよその心拍出量がわかってきます。
この冷水は0℃の5%ブドウ糖液や生理食塩水が用いられています。
私の施設ではスワンガンツカテーテルのを用いた検査を行う際、術前に冷凍庫から5%ブドウ糖液がでてきます。
だいたいこれを電子レンジで30秒ほど温めています。
(完全に0℃の状態は氷のため、一部溶かして水として使用する必要があります)
ちなみにこれは熱希釈法と呼ばれます。
なお、測定値にはばらつきがあるため、2~3回ほど測定して、その平均値が結果となります。
また、心拍出量の測定方法にはFick法というものもあり、こちらも熱希釈法と並行して行うことがあります。
これは熱希釈法では算出できない場合(心房中隔欠損症、三尖弁閉鎖不全症などにより
心臓内にシャント(短絡)が生じている場合)に用いられる検査方法です。
しかし、熱希釈法の正確性を判断するために測定することもあります。
これは熱希釈法とは異なり、特別な物品を使用することもなく、
必要なのは動脈血と静脈血の血液ガス測定だけです。
一応酸素消費量の算出に身長と体重、心拍数の測定も必要となるのですが、
これらはそもそも検査を行うと決まった時点で分かっていることが多く、
心泊数に関してはFick法の有無にかかわらずカテ室では常に測定しています。
血液ガスに関してもスワンガンツを行った時点で静脈のガス採血は問題ありませんし、
動脈のガス採血も検査と同時にCAG(心臓カテーテル検査)を行う時もあり、その時に動脈穿刺を行うので
基本的にFick法を行うデメリットは全くありません。
Fick法は各検査で取得した数値を演算することで産出される予想値のため、
熱希釈法よりは正確性が劣りますが、
熱希釈法の検査の手軽さを考えると妥当かと思われます。
私の施設ではついでにFick法もという場合が多いです。
これもいきなり言われることもあるので測定できることは知っておきましょう。
スワンガンツカテーテルの各測定値について
ここまでの内容でスワンガンツカテーテルの全貌については明らかになったと思います。
最後にスワンガンツカテーテルで測定できる各測定値について紹介していきます。
PCWP(Pulmonary Capillary Wedge Pressure)
スワンガンツカテーテルでは基本的にPCWP(肺動脈楔入圧,ウェッジ)から測定することとなります。
このPCWPの測定にはスワンガンツカテーテルに備わっているバルーンが必要で、
肺動脈内まで挿入できたらバルーンを膨らませて、
肺動脈を完全に塞いだ時にカテーテル先端にかかる圧のことを意味しています。
これはつまり、右心室から肺動脈にかかる圧力の影響は無視して、
左心房、左心室拡張期にカテーテル先端孔から反映した圧力が表示されるため、
左心系の機能評価に用いられます。
圧波形としてはなだらかな山が二つあるような波形をしています。
正常値は6~12mmHgとなっています。
この値より上昇している場合は、左心不全の可能性があり
低下している場合は循環血液量が減少している可能性があります。
PAP(Pulmonary Arterial Pressure)
PAP(肺動脈)は右心室から肺動脈に入って直ぐの部分のmainPAと左右のPAを測定することがあります。
多くの場合はmainPAだけでいいのですが、
肺塞栓などの肺の状態を確認したい場合は左右のPAを比較することもあります。
圧波形としては大きな山が1つあり、肺動脈便閉鎖によるノッチもあります。
正常値は収縮期で15~25mmHg、拡張期で8~15mmHg、平均10~20mmHgとなっています。
PAの平均圧が25mmHg以上の場合は肺高血圧状態と判断できます。
この状態であると、右心室から血液を拍出するために必要な力が大きくなるため、負荷がかかります。
この状態は右心不全であると判断できます。
RVP(Right Ventricular Pressure)
RVP(右心室圧)は右心室内の圧です。
圧波形は小さな山に連続して背の高い山がある波形です。
正常値は収縮期で15~25mmHg、拡張期で0~8mmHgとなっています。
拡張期圧が上昇している場合は右心室内に血液が残っている状態である事が考えられるため、
右心不全、心タンポナーデの可能性
収縮期圧が上昇している場合は肺高血圧症の可能性が考えられます。
収縮期圧が上昇している場合、PAの値も上昇していることが高く、
この場合は肺高血圧症と判断してほぼ間違いないでしょう。
RAP(Right Arterial Pressure)
RAP(右心房圧)は右心房内の圧です。
圧波形はなだらかな山が二つあるような波形をしています。
正常値は0~7mmHg、平均4mmHgとなっています。
平均圧が上昇している場合は右心不全、心タンポナーデの可能性があり、
平均圧が減少している場合は循環血液量の減少の可能性が考えられます。
RVPと似た考え方がRAPでもでき、右心室に血液が貯留している場合はほぼ確実に
右心房でも貯留しているため、RAPとRVPは共に上昇し、共に減少することが多いです。
また、この数値は右心系の機能評価に用いられるCVP(中心静脈圧)と
等しいということも覚えておくことが重要です。
CVPは体内の血液量の判断に用いられることが多く、
よくうっ血性心不全の判断にも用いられる値です。
CO(Cardiac Output)
COは心拍出量を意味する言葉で、熱希釈法、Fick法で測定されます。
心拍出量とは、1分間に心臓から全身に送り出される血液の量を表しており、
1回拍出量×心拍数で求められます。
正常値は3.5~7.0L/minとなっており、
心拍出量が正常値より低くなっている場合は心不全や心タンポナーゼなどにより、
心臓が拍出しにくい状況になっていることが考えられます。
CI(Cardiac Index)
CIは心係数を意味する言葉で、熱希釈法、Fick法で測定されます。
CIは心拍出量を個々人体格差を補正するために体表面当たりに換算した心機能を表す指標です。
心拍出量/体表面積で求められます。
正常値は2.5~4.2L/min/m²となっています。
この値が2.2以下で抹消循環不全、1.8以上で心原性ショックに陥る可能性があると言われています。
フォレスター分類にも使用される重要な指標です。
まとめ
今回はスワンガンツカテーテルを用いた心内圧と心拍出量の測定方法について紹介してきました。
カテ室で行われる検査としては珍しいものではなく、よく行われているのですが、
冠動脈の狭窄部を確認するCAGという検査に並ぶほどメジャーですが、
実際の検査はCAGよりも圧倒的な情報量を得ることができます。
もちろんCAGも重要な検査の一つですが、スワンガンツカテーテルの検査も非常に重要なので
しっかり確認しましょう。
また、この検査で最も重要な項目であるPCWP、CIを用いたフォレスター分類については
後日紹介するのでお待ちください。
一緒に頑張りましょう!