人工呼吸器を使用していて、換気量を上げた途端に肺の状態が急に悪化した経験はないでしょうか。
臨床では、二酸化炭素が溜まり始めると換気量を増やすという判断を取りがちですが、
設定の選び方を誤ると、かえって肺を強く傷つけてしまうことがあります。
この代表的なものがVALI(人工呼吸器関連肺損傷)です。
VALIは人工呼吸中に起こる肺の損傷であり、「過膨張」「虚脱と再開通」という問題を同時に含んでいます。
本記事では、VALIの基礎から原因、現場で実践できる対策までを整理し、確実に役立つ知識としてまとめます。VALIの理解は人工呼吸管理の質を大きく左右します。
読後には、人工呼吸器設定の根拠をより自信をもって説明できるようになります。
- VALI(人工呼吸器関連肺損傷)について
- VALIを予防するための人工呼吸器の適切な設定
VALIについて
VALIは、人工呼吸中に肺胞へかかる力と動きが過度になったときに生じる損傷のことです。
VALIは人工呼吸器使用中に生じる三大合併症の一つとしても知られています。

- VALI(人工呼吸器関連肺損傷)
人工呼吸による肺胞の過膨張や虚脱・再開通によって生じる損傷
肺保護戦略を行わないと、炎症が広がり全身性の影響も出る可能性あり - VAP(人工呼吸器関連肺炎)
挿管や気管チューブを介して細菌感染が起こる肺炎
口腔ケアや挿管管理が不十分だと発生率が高く、早期発見と予防が重要 - 吸収性無気肺
高濃度酸素の長時間投与により肺胞内のガスが血液に吸収され、
肺胞が虚脱して生じる肺障害
人工呼吸器は外から空気を押し込む仕組みのため、患者の肺の状態に合わない設定で換気を行うと、
弱っている部分に強い負担がかかります。
特に問題となるのが肺胞の「過膨張」と「虚脱と再開通の繰り返し」です。
臨床では、VALIが起きると呼吸音が弱くなったり左右差が出たりします。
肺胞が破れて空気が皮下に漏れると皮下気腫が起こり、
重症化すれば血圧低下や脈の増加につながることもあります。
呼吸器の画面では、一回換気量が想定よりも入らない、気道内圧が不自然に上がるなどが
早期の手がかりになります。
特にARDSの患者では肺の状態が不均一であり、VALIのリスクが高く、より慎重な観察が求められます。
VALIは一度進行すると炎症が広がり、肺全体の状態が悪化して、人工呼吸管理そのものが難しくなります。
人工呼吸は患者を助ける治療である一方、その治療が原因で新たな損傷を生んでしまう危険があるため、
VALIの理解はすべての臨床工学技士にとって重要です。
- VALIは人工呼吸の力が肺胞に過度な負担をかけて起こる損傷である
- 過膨張と虚脱・再開通が主なメカニズムである
- 呼吸音、皮下気腫、換気量低下、気道内圧上昇が早期発見の重要な手がかりである
VALIが生じる原因

VALIが起こる背景には、人工呼吸器という外から押し込む仕組み特有の負担があります。
人体の呼吸は本来、胸郭が広がることで空気を吸い込む仕組みですが、
人工呼吸はその逆で、陽圧をかけて空気を押し込みます。
これを陽圧呼吸と言います。
肺に病変がある場合、この陽圧が均等に分散されず、
特定の場所だけが強く押し広げられることで損傷が生じやすくなります。
急性肺疾患では、肺の中の空気が残りにくく、正常に膨らむ範囲がとても狭くなります。
その結果、人工呼吸器から与えられる圧や換気量が、一部の肺胞に集中してしまいます。

過膨張
過膨張とは、肺胞が必要以上に広がる状態です。
肺胞は薄い膜でできているため、広がりすぎると膜が引き延ばされ、細かく傷つきやすくなります。
人工呼吸器で換気量や圧を過度に上げた場合、特にこの過膨張が起こりやすくなります。
広がりやすい部分はさらに広がり、潰れている部分は動かないため、肺全体の働きが不均一になります。
この状態で陽圧を加えると、広がる部分だけが極端に引き伸ばされ、過膨張が進みます。
虚脱と再開通の繰り返し
虚脱と再開通の繰り返しは、肺が部分的に潰れている時に起こります。
吸気では開きかけるものの、呼気で再び潰れるという動きを繰り返すと、
潰れた部分と開いている部分の境目に大きな摩擦が生じます。
この摩擦は肺胞壁に大きな負荷となり、損傷をさらに広げる原因になります。
つまり、潰れた肺胞が再び開く動きを何度も行うことで生じる負担です。
この摩擦は肺胞の細かな構造に強い負担を与え、損傷が波及します。
これがずり応力と呼ばれる負荷の正体であり、肺全体に炎症が広がる要因となります。
- 過膨張は肺胞が必要以上に広がり壁が傷つく状態
- 虚脱・再開通は潰れた肺胞が開閉を繰り返し境目で摩擦が生じる状態
肺の中は均一ではなく、病変部と比較的保たれている部位が混在するため、人工呼吸器の陽圧がかかると、
一部の肺胞だけが大きく動かされ、損傷が局所的に拡大しやすい構造になっています。
人工呼吸中の圧外傷は、圧そのものだけが原因ではありません。
肺の状態が不均一であること、過膨張と虚脱が混在していること、陽圧による動きの偏りなど、
複数の要素が重なって起きます。
圧による損傷、量による損傷、虚脱と再開通による損傷、炎症による損傷が同時に進むことで、
患者の呼吸状態が急激に悪化することもあります。
臨床では、この不均一性を理解しないまま換気量を増やしたり、圧を高くしたりすると、
VALIの危険が一気に高まります。
PaCO₂高値で呼吸性アシドーシス
低換気な状態であったため、換気量を増加させる(VCVの設定)
その結果VALIになる
換気不足を補おうとしたことが、かえって肺に大きな負担をかけるという逆転現象が起こるため、
人工呼吸器設定の判断は慎重である必要があります。
- 人工呼吸は外から押し込むため、肺の不均一な部分に負担が集中しやすい
- 圧、量、虚脱・再開通、炎症の複数要素が重なることでVALIが悪化する
VALIを防ぐための人工呼吸器設定

VALIを避けるためには、肺にかかる負担をできるだけ均等にし、
過膨張を防ぎながら虚脱も起こさないという、相反する条件を同時に満たす必要があります。
人工呼吸器設定では、このバランスを見極めることが最も重要です。
- 一回換気量の設定
肺胞の過膨張を防ぐ - 吸気プラトー圧の設定
圧損傷を避ける - PEEPの設定
肺胞の虚脱や再開通を防ぐ(患者ごとに最適値を調整)
特に一回換気量の設定と吸気プラトー圧の設定は肺保護換気とも呼ばれています。
ここからは人工呼吸器の設定がどのようにVALIを防いでいくのかを見て行きます。
まず、過膨張を防ぐ基本は一回換気量を必要以上に大きくしないことです。
特に病的な肺では広がる範囲が限られているため、通常の換気量では過膨張を起こしてしまうことがあります。そのため、理想体重を基準にした少ない一回換気量の設定が推奨されます。
また、吸気の途中で肺が受ける圧が高くなりすぎていないかを確認することも大切です。
圧が高いほど過膨張の危険が増すため、圧の上昇は常に監視する必要があります。
次に、虚脱を防ぐためには、呼気のたびに肺胞が潰れないよう支える必要があります。
その役割を果たすのがPEEPです。
PEEPを適切に設定することで、肺胞をある程度開いた状態で保ち、
再開通による摩擦を抑えることができます。
しかし、PEEPが高すぎると圧負担が増え、逆に死亡の危険が高まる可能性もあるため、
患者の状態に合わせて慎重に調整する必要があります。
肺の損傷は均一ではありません。潰れた部分と広がった部分が混在しているため、
同じPEEPでも患者によって効果が大きく異なります。
このため、一律に適切なPEEP値を決めることはできません。
必ず呼吸状態、胸郭の動き、気道内圧、酸素化の変化などを観察しながら調整します。
また、吸気プラトー圧は、肺が吸気の間に受ける圧力の最大値を示す指標で、
肺胞全体の膨張度を反映します。
VALIは、肺胞の過膨張や虚脱・再開通によって生じる損傷であるため、
プラトー圧を適切に管理することが予防の鍵となります。
肺胞が過膨張すると、壁が引き伸ばされて微細な損傷が生じやすくなり、
圧損傷につながります。
これにより炎症性サイトカインが放出され、肺だけでなく全身に炎症が広がる可能性もあります。
さらに、適切なプラトー圧の管理は、PEEPと組み合わせることで虚脱肺の再開通を支えつつ、
過剰な圧負荷を避けるバランスを取る役割も果たします。
過度にプラトー圧が高いと、肺胞の一部だけが大きく広がり損傷が拡大する一方、
低すぎると虚脱肺を開くことができず酸素化が悪化します。
そのため、プラトー圧を指標として肺全体への負担を最小化しつつ、
十分な換気と酸素化を維持することがVALI予防に直結します。
また、二酸化炭素の上昇に対して換気量を無理に増やすと、過膨張が進みやすくなります。
換気量を増やす前に、気道抵抗や呼吸回数、PEEPとのバランスを確認することが重要です。
特にARDSでは肺の動ける部分が少ないため、換気量で補おうとすると、
残っている正常肺に強い負担が集中し、VALIを加速させます。
最終的に重要なのは、「換気不足を補うために設定を上げるほど、肺の損傷リスクも上がる」という構造を
理解することです。
設定変更の理由を明確にし、患者の状態に沿った最小限の負担で換気を維持する判断が求められます。
なお、これ以上の設定はVALIを引き起こしそう!となった場合、
次のステップとしてV-VECMOが挙げられます。
腹臥位にすることで換気状態をよくすることも可能ですが、限度があるため、
この点についても理解しておくと次の一手を打ちやすくなります。
過膨張を防ぐには一回換気量を少なくし、吸気の圧を上げすぎない
虚脱を防ぐにはPEEPで肺胞を支えるが、高すぎても低すぎても問題となる
設定は画一的に決められず、患者の状態を見ながら調整する必要がある
まとめ
VALIは、肺胞の過膨張や虚脱・再開通の繰り返しによって生じる肺障害であり、
呼吸器管理の不備や過度の陽圧換気が原因となります。
症状として呼吸音の低下や左右差、皮下気腫、血圧低下、頻脈、換気量低下や気道内圧上昇などが現れるため、臨床現場では早期の発見と観察が重要です。
予防の基本は肺保護戦略にあり、一回換気量の制限や吸気プラトー圧の管理、
PEEPの適正設定によって肺への負担を最小化することが求められます。
また、過剰な陽圧や換気量の増加を避け、患者ごとの肺の状態に応じた調整が不可欠です。
これにより、圧損傷や量損傷、虚脱性肺損傷、炎症性肺損傷のリスクを低減し、
安全で効果的な人工呼吸器管理が可能となります。
VALIの予防は臨床工学技士にとって重要な役割の一つです。
ぜひ実践できるように知識を付けていきましょう。
一緒に頑張りましょう!


